トランスフォーマー

□報われない話
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 くそ、とスタースクリームが壁を蹴った。壊す意図は全くなく、ただの八つ当たりである。コンバットロン達に放り込まれた部屋は、囚人達に脱走されぬよう特別に作られたデストロン御自慢の牢獄なのだ。壊そうとするだけ無駄、費やす労力がもったいない。――実験済みである。過去メガトロンへの反逆行為を咎められ、投獄された時に。
「レーザーウェーブ!」
 次の標的は一緒に閉じ込められた単眼のトランスフォーマーだ。びしりと指を突き付け、声を張り上げる。
「お前が俺の計画に協力しないからこうなったんだぞ! 素直に言うこと聞いてりゃ、今頃」
「俺の主人はメガトロン様だけだ」
 レーザーウェーブは内心うんざりしながら言った。何度同じ話を聞き、何度同じことを言えばいいのか。コイツは400万年たっても何も変わっていない。……あぁ、コイツには400万年など存在しないんだったか。再び主達と通信できるようになった直後こそ、懐かしさゆえに微笑ましく思っていたレーザーウェーブだったが、この状況下ではそうも言っていられない。
「だいたい、なんでそんなにメガトロンにこだわるんだよ」
「メガトロン“様”だ、スタースクリーム」
 聞く耳持たぬだろうなと思いながらも、一応咎める。
「あんなの、メガトロンでいいんだよ!」
 やはり聞かなかった。しかも“あんなの”呼ばわりときた。だが次はレーザーウェーブも聞き流した。こうなったスタースクリーム相手ではキリがないのだ。気にするだけエネルギーの無駄である。
「どんなに尽くしたって、どうせ報われないってぇのによ」
「何故そう思う」
「だってそうだろ! あの老いぼれ、何百年たったって一向にサイバトロン共をやっつけられねぇじゃねぇか。しかも地球で戦うようになってからは、苦汁をなめさせられるばっかりだ! 奴がリーダーであり続ける限り、状況は変わらないぜ」
 あぁ、いつものニューリーダー理論か、とレーザーウェーブは内心で息をついた。そんなことを知る由もないスタースクリームは憤慨一転、得意げな顔になって大したこともない講釈を垂れ始める。
「だが俺様は違う。俺様の頭脳と実力さえあれば、サイバトロン共もエネルギーの問題もすぐに解決だ。……いつも誰かしら邪魔をするから成功しねぇんだよ」
 最後は恨みがましく吐き捨てた。先程レーザーウェーブが協力しなかったことを責めているのだ。レーザーウェーブは聞かなかったことにした。
「レーザーウェーブ、俺ならお前の忠誠に報いてやれる。メガトロンなんかやめて俺様に付け」
「……」
 スタースクリームの話には反論したい部分がいろいろあった。だがそれでこの自称ニューリーダーが納得するとは思えなかったし、今のセイバートロン星の状況を考えれば議論している場合でもないのだ。――とはいえ、何ができるというわけでもないのだが。
 とりあえず、後のことを考えてエネルギーの節約には努めておこうか。エネルギー不足に苦しんだ400万年の後期で得た教訓は活かさなければ。
 だからスタースクリームにはこれだけを返した。
「お前がもしデストロン軍の新しいリーダーになったその時は、考える」
「……」
 スタースクリームは舌打ちした。腕を組み、レーザーウェーブに背を向ける。
 しかし。
「……忘れんなよ」
 あの頑なな防衛参謀が見せた柔軟さにとりあえず満足し、以降口を閉ざした。たとえその場しのぎの答えだったとしても、実際に自分がリーダーになれば否応なしに考えなければならないのだ。そして、デストロンのことを思えば協力せざるを得なくなる。だからスタースクリームは、この場では、その返答で納得して引き下がったのだった。
 もっともレーザーウェーブからすれば今更な話で、スタースクリームが思うほど意識してはいないのだが。もしものことなど、リーダー不在の400万年の間に考えなかったわけがないのだから。
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