トランスフォーマー

□予兆
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 やはり厄介なことになった。
 ウルトラマグナスとマトリクスを破壊するために、新しい軍団を率いて出撃していったガルバトロンを最敬礼で見送りながら、レーザーウェーブは内心苦々しい思いでいた。
 スタースクリームからメガトロンが死んだと知らされた時に、嫌な予感がしたのだ。メガトロンがガルバトロンとなって帰還したのを見て、それはますます強くなった。
 厄介な事にならなければいいのだがと望む一方で、おそらく叶わないだろうと覚悟していたものの、それでもいざ予感が的中するとやはり落胆は否めない。
「ガルバトロン様が現れた時、お前さんは全く嬉しそうじゃなかった。もしかして予測してたのか?」
 ブリッツウイングがレーザーウェーブに尋ねる。
「……あの方が死ぬのはありえない。だからスタースクリームの言葉など全く信じてはいなかった。ただ……」
「ただ?」
 レーザーウェーブは少しだけためらった。ためらった後に、淀みなく答えた。
「メガトロン様は強運の持ち主だ。それは、凶運とも言える。非理論的な言い方はしたくないが、長い永い戦いの中で何度も思い知らされてきた。メガトロン様は間違いなくそういうものをお持ちなのだ。それは認めざるを得ない」
「凶運」
「そういう非論理的な要素すら味方に付けられるからこそメガトロン様は覇者でありえたのだし、死ぬなどありえぬと思えたのも事実だが……ガルバトロン様となって帰還して、凶運が明らかになったな」
「なんで分かったんだ?」
 今度はフレンジーが問う。
「よく考えても見ろ。地球進撃からまだ間もないというのに、スタースクリームに抵抗できず宇宙へ放り出されるくらいに損傷したメガトロン様が、あのような強力な力と軍団を何処で手に入れてきたというのだ?」
「それは」
「強大な何かの意図が働いていると見て間違いない。それがメガトロン様にとって都合のいい存在であるとは、断言できまい」
 そしてユニクロンの凶行やスカージとのやりとりを見てはっきりした。ガルバトロンはユニクロンに付け込まれたのだ。
「じゃぁ、どうするんだよ?」
 ダージが怯んだ声で尋ねた。レーザーウェーブは、首を振った。
「今は、どうもできないだろう」
「え!?」
 場が騒然となる。
「ガルバトロン様があのデカブツにいいように使われてるってことは、デストロンの立場だってマズイんじゃないのか!?」
「マズイな」
「んな平然と……」
「慌てても仕方がない。いつも通りに備えるしかないのだ。何せ相手はあの強大な惑星と、我等ではもはやかつて以上に全く太刀打ちができないであろうガルバトロン様なんだからな」
「太刀打ちって」
 フレンジーはそこで言葉を失った。まさかレーザーウェーブの口から出てくるとは思えない言葉だったのだ。
「メガトロン様に……ガルバトロン様に楯突く気があったのか?」
 僅かに険しい声でアストロトレインが問う。ガルバトロンを廃し、レーザーウェーブがデストロンのトップに立つつもりかと暗に訊いているのだ。
「……ガルバトロン様が御自身の意志に反してデストロンに刃を向けるようなことがあれば、戦わなければならなくなるかもしれないだろう」
「あぁ、そういうこと」
 また、メガトロンが己の意思でデストロンに仇名す存在となるなら、その時は全力で諌めねばならない――とは言わないでおいた。今は余計な面倒事を避けるべきだ。己のメガトロンに対する忠誠心が多少なりとも他の兵に影響を与えることを、レーザーウェーブは理解している。
「――ともかく、今はガルバトロン様のユニクロンとの駆け引きの腕にかけるしかあるまい」
「そんな曖昧な……」
 フレンジーが不安げに呻く。
「だから、俺も厄介なことになったと考えていたところだ」
 それはもう、非常に。レーザーウェーブの電脳はユニクロンの姿を認めた時から高速で計算をしていた。最悪の状況に陥った時の対処方法を。しかし未だ有効策は見出せないでいる。
 未曾有の危機と言って良かった。空白の400万年よりも遥かに絶望的な状況だった。
 レーザーウェーブはその場を離れようとした。
「何処に行くんだよ?」
 フレンジーが慌てて呼び止める。
「今はどうすることもできなくても、いつでもどうにかできるようにしておかなければならない」
 どんなに危うい状況だとしても、考え、行動することを放棄してはならない。
 守らなければならぬ。軍団を、そしてセイバートロン星を。それが防衛参謀の役目なのだ。
 落胆するのはここまでだ。レーザーウェーブは完全に思考を切り替えた。離れる背に更に言葉を重ねる者はいなかった。



END
書きかけてしばらく放置していた小説をやっとアップ。
時間が空きすぎてどう終わらせる予定だったのか覚えてないから、仕方なく新たに考え直して付け足したけど、明らかに付け足しました感が……途中で放置する癖をいい加減どうにかしないとなぁ。

ちなみにこの時点では光波さんの中ではまだガルバトロン=メガトロンです。
2010では光波さんはもういませんが、生きていたらもう=ではないでしょう。

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