幻想水滸伝
□死に逝く者と生き残る者
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初めて参加した本格的な戦。
まるで雑草を刈り取るが如く人を斬り、まるでゴミのように人が死んでいく。
惜しげもなく注がれる大量の血。もうその臭いを感じなくなった。
これが戦。頭では分かっていた。実際目の当たりにしてみると……やはりそんなものだった。
己の感情が希薄になっていくのが分かった。
自分が何を斬っているのか……それ以前に何をしているのかすら、分からなくなりそうだった。
できるだけ自分は殺されぬように。仲間が殺されぬように。
倒れぬように。動かなくならぬように。
ひたすら、ひたすら大刀を振るう。
「百人隊長がやられたぞ!!」
百人隊長が殺された……
百人隊長……
「ハンフリー」
仲間の一人が気遣わしげな顔をハンフリーに見せる。
ああ、そうだ……
「父上」
百人隊長は自分を養子にしてくれた人。
百人隊長としてカシム=ハジル将軍の側で戦っていた人。
「やられた……」
事実が頭に浸透するまで時間がかかった。
そうか、殺されたのか……
『ハンフリー、死ぬんじゃないぞ。生き残らねば、未来は……望む未来は手に入らん』
「ハンフリー!! 待て、何処へ行くんだ!」
気が付いたら駆け出していた。持ち場を離れ、仲間の制止に耳を貸さず。
「仇討ちなんて考えるな! 死ぬぞ!!」
仇討ちなんて考えもしなかった。ただ、奪われたものを取り返さなければならないという思いだけがあった。早く取り返さなければ、永遠に失われる。父の『未来』が失われる。そのことが恐ろしく思えて、ハンフリーは走った。
一種のパニック状態だったのかもしれない。もう失われているのだと気付けなかった。
見覚えのある姿を見つけ、ハンフリーは側に駆け寄った。
光を失い、虚空を凝視する養父。
『ハンフリー、死ぬんじゃないぞ。生き残らねば、未来は……望む未来は手に入らん』
失われた。もう帰ってはこない。
未来は失われ……
ドサリ、とすぐ近くに敵の死体が転がった。反射的に周囲を見回すと、多くの者が戦っていた。