捧げ物etc...

□籠の小鳥
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君は病院という名の

小さな箱の中でずっと過ごしてきたね。

外には目を向けようともしなかった。

ずっと閉じこもっていた。

誰にも心を開かなかった。

井の中の蛙とはこのことか。



僕は最初は君が心配だった。

だから、毎日のように

君のいる箱の中に通ったんだ。

君は僕にだけは

心を開いてくれるようになった。




いつしか君といる時間が

何よりも好きになっていたんだ。

そう、テニスをしている時よりも。



僕と君が惹かれあうのに

時間はかからなかったね。









そんな僕と君の

小さな小さな恋の物語。




















これは先日の出来事───...



病院の306号室。

ドアを開けたらいつもと変わらない

君の笑顔が僕を迎えてくれた。



『周助っ♪!!』


「やぁ、元気かい?」


『うん!もうすぐ、退院できるの!
これでやっと周助と同じ学校へ行けるね!!』


「ふふ、そうだね。」



虹色はもう10年以上、

この病院どころか部屋からも

あまり出ていない。


それどころか、人と関わるのを嫌がり、

医者にですら滅多に目を合わそうとしない。



何がそこまで彼女を

他人に近づかないようにしているのか

全く検討がつかないが、

このままではいけないということは

すぐに分かった。




でもそれももう心配なさそうだ。

なぜなら、彼女は退院するから。


外に出れば、人と接さざるを

得なくなろだろうしね。










...でも、僕のその考えは甘かったようだ。


『退院したら、
まず運動しなきゃね!
私ずーっと動いてないんだもの。』


「そうだね。」


『学校が終わったら
周助も私の運動につきあってね?』


「そうしてあげたいのは
山々なんだけどね...
僕は放課後は部活があるから。」


『あぁ!そっか。
なら、私、終わるまで待ってる。』


「えぇ?結構遅くまでやってるよ?」


『いいの。教室で待っているから。』


「...そっか。
教室には友達もいるだろうしね。
分かったよ。でも遅くなる時は...『友達?』


「え?うん...友達...。え?」


何故そこに反応したんだ?

しかもキョトンとしているし...。










『私、友達なんか作らないよ?
周助がいてくれるだけでいいもん。』







「ぇ、でも...
そういうわけにはいかないだろう?」


『どうして?』


「だって休み時間とか昼休みとか...」


『周助のとこにいくから大丈夫。
あ、心配しないで!
周助が忙しい時は 私 一人でいるから♪』


「...じゃあ修学旅行...とか、は?」



『そんなの行かないでもいいもん。』





絶句。驚いた。

そこまで人と関わりたくないのか。

しかとこれはちょっとやそっとじゃ

揺るぎないようだ。



「どうして友達を作らないんだい...?」



『...?だって必要性を感じないもの。』



「必要性...?」



『えぇ。昔、誰かが言ってたの。
《自分のパートナーを見つけなさい。
その人と一生支え合っていける、
信頼できるパートナーを。》だって』


間違ってはいないと思う...けど。

それがどうかしたのかな?


『私、それが周助だと思ってる。』


「...ありがとう。」


たしかに、僕は君となら

一生一緒でも構わないよ。



『だからもう他の人は必要ないでしょ?』


...ん?...え?



『パートナーみつけたんだから、
もう他の人と関わる必要ないでしょ?
広く浅くとか八方美人って嫌いなの。
私は自分を分かってくれる人が
一人いるならもうそれで十分だよ。』




その時、僕は

...そう、としか言えなかった。



まさか、そんな考えでいたなんて。









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