笑って、嗤って、翻す

□Dear prince
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“まったくもって気に入らねえ”。

その一言がすべての始まりだった。



「白石くん……なんなのかなこれは」

「はは…なんなんでしょうね」



跡部くんがもらした不満から始まった試合はさらに加速していき、大石くん菊丸くん海堂くん桃城くん樺地くん跡部くん…って言ってったらキリがない!

とにかく負け組バーサス勝ち組の試合が始まってしまったのです。

敵同士でダブルス組んじゃってるところもあるけどね。

…………だけど。

勝手な試合は厳禁でしょ、と注意しなくてもいいよね、これは。

テニスで会話みたいなもんか。ただいまとおかえりのコミュニケーションを取っているのかな。

お互い何も言わないけど、テニスで、ボールで、ラケットで会話してる。

みんなの表情から伝わる。…ああいいなあ。



「智先輩、これって規則違反ですか?」

「白石くっ…いま名前…!」



顔に熱があつまるのが分かる。

だけど白石くんは爽やかに、俺も行ってきます、と。

な…不意打ち…!!

熱くなる顔を両手で押さえて心を落ち着かせた。



私はマネージャー、彼らは選手。

サポートしサポートされ、お互い支えあっていくだけの関係。…だった。

過去形なのは、だって。



「おい見てるか中山智!」

「…跡部くん」

「智せんぱーい…こっち」

「白石くん」

「見ててください中山せんぱぁい!!」

「桃城くん…」



初めはお互い警戒してて、すきになるなんてありえないまで思ってた。

だけどこんなに……こんなこと言われたら……



「中山先輩っ!?」

「みんな……だいすきだよ…!」



涙流しても、いいよね。

あの日―――中学生がここへ来る日、入江は私に言った。

『らしくないね、弱音を見せるなんて』と。

そうだ。弱音は他人に見せたくない。

あの日は弱音くらい他人に見せるよと思っていたけど、ここはU-17合宿所で、高校3年の私は先輩だ。

後輩に、異性に弱音を見せるなんてしたくない。プライドってもんがある。鬼の…男のプライドとはまた違うと思うけど。



中学生に施設案内をするときも。

跡部くんだけじゃない、ほかにも数名私を敵視する人がいた。

私はそれを感じ取って、いやだなっていうかもっと言えば生意気、なんて思ってたけど。

今はそんなことが昔の思い出のように感じられる。

彼らに対する『いやだな』という感情はもうなかった。



「中山先輩!?」

「中山さん!」

「お、おい、大丈夫か?」



いろんな人が泣いている私を心配して慰めてくれて、…これって嫌われてたらされないよね。

すでにボールを打つインパクト音は聞こえなくなっていた。



「あのね、みんな…」



そして涙でぐしょぐしょであろう顔をあげで、必死に笑顔をつくる。

この言葉は言わなくてはいけないのだ。…みんなに。



「おかえり!」








Dear prince

(輝ける君たちへ、―――――)

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