笑って、嗤って、翻す
□電話越しの声
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夜。
自室に設備されているお風呂を出、髪を乾かしているときに電話のバイブ音が聞こえた。
「誰だろ・・・・・・あ」
ディスプレイを見れば、表示されていた、1ヶ月ほど会っていない親友の名前。
ずっと話していなかった女子との久しぶりの会話を想像し、顔が綻びてしまった。
「もしも『ちー!ちー久しぶり!!』ひ、久しぶり」
通話ボタンを押せば、いつも通り元気ないっちゃんの声が聞こえた。
夜だってのに、元気だなあ。
でも相変わらずで、なんだか嬉しい。
『もう聞いて!聞いて!?』
「聞く聞く聞くから落ち着いて」
『落ち着く?別に興奮なんてしてないし!』
「・・・・・・で、なに?」
きっと彼女の辞書に『落ち着く』という文字はないんだろう。
言っても無駄だったので、諦めて続きを促す。
そうすれば電話越しに盛大なため息が聞こえた。
・・・落ち込むようなことなのかな。
『今日ね、拾いモノをしてさ』
「拾い物?」
『うん。実は・・・・・・あっちょっ、リョーガ!!』
リョーガ・・・?
呼び捨てにしてるってことは、それなりにいっちゃんと仲のいい人だと思うけど、遠征組にそんな名前の人はいなかったはず。
じゃあ、誰?
『あーもしもし?キミ“ちーちゃん”?』
「えっ・・・」
電話越しに聞こえたのは、聞き覚えのない男性の声。
あ・・・男性って言っても、若いかんじの声かな。
まあ若かろうが老けていようが、聞いたことのない声だった。
『ちょっと!ちーはあんたより年上!』
『ああ、じゃあちーちゃん先輩?』
『苗字で呼びなさい苗字で!』
『うっせーなー。そもそも俺、この子の苗字知らねーし?』
『ッキー!あたしの名前も覚えないし敬語使わないし生意気!』
どこのババアだよ、なんて“リョーガさん”が返せば、また始まる言い合い。
でもどうだっていいよ、とりあえず君は誰ですか。
「あの・・・どなたですか?」
『んっ?何?もういっかい』
『電話返して!』
『届くんならな』
『うっざ!』
いっちゃん・・・悪いけど、うるさいよ。
本当はいっちゃんと話したいけど、今は黙っていてほしいな。
「どなたですか?名前は?年齢は?」
『おー、ちーちゃん先輩積極的ぃ』
「いいから名前。なに」
『こっわ(笑)』
そういうのいいから・・・。
話しづらいなあ、こういう人。
『今日平等院サンに拾ってもらった、越前リョーガ。知ってる?越前リョーマの兄貴だよ』
越前リョーガ?越前リョーマのお兄さん・・・?
え、ちょ、待って、え?
思考回路がやばい。
頭の回転遅いな私。
「越前・・・リョーガ?」
『そ。
・・・ねえねえ、俺早くちーちゃん先輩に会いたいな』
「え?」
『だって“男子ばかりの合宿所に咲く一輪の華”なんでしょ?』
なんだそりゃ。誰言った、それは。
とりあえず“相当美人”という印象をもたれているようなので、「想像はやめなさい。会ったらガッカリするよ」と訂正しておいた。
『えーそれはないでしょ・・・おっ、わっ』
『届いた!』
電話の向こうで、やっといっちゃんの声が聞こえた。
どうやら電話を越前リョーガから取り戻したみたいで、『もしもし?ごめんね、場所変えるわ』と言っている。
楽しそうだな、と思った。純粋に。
いっちゃんは人懐っこい性格で、誰とでもすぐに打ち解けられる。
でも私はそういうのがあまり得意ではなくて、人と“そういう関係”は持てにくい。
だから、いっちゃんを「羨ましい」と思う自分がいた時期もあった。
まあ今は、どういでもいいんだけどね、そういうことは。
そのあとは30分ほど、テレビの話や今いるお互いの国の話、学校の友達の話などをして電話を切った。
その電話が終わった頃には髪がすっかり乾いていて、時間が過ぎるのも分からないくらい、いっちゃんと話すのは楽しかったことを実感した。
電話越しの声
(やっぱり女の子はいいなあ・・・)