笑って、嗤って、翻す
□個々の心情、人知れず
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「あり・・・が・・・とうございました・・・・・・鬼先輩」
コートで仰向けになって肩で息をする桃城くんを見て、なにかが冷めていく感覚に襲われた。
・・・どうして私が、罪悪感を感じてるのよ・・・。
「・・・貴様名前は?」
聞き返す鬼だが、自分のガットを見て目を見開いた。
私も驚いた。
だってガットが、切れていたから。
多分最後の一球だ。
あれが、鬼のガットを切った。
――・・・すごい。
だってラケットすら、握れていなかったのに。
少し期待しても、それは過大評価ではないでしょ?
「這い上がって来い、桃城武」
静まる周りを気にせず、コートを立ち去る鬼にかけよった。
「おつかれさま」
「・・・手当てしてやれ」
「あーあ、ならあの技、使わなきゃよかったのに」
「これでコーチ陣も満足だろう」
鬼は知っていた。私も。
何の理由で、桃城くんが鬼と入れ替え戦で当てられたのか。
だから圧倒的な力の差を見せ付けたってわけね。
入江みたいにネチネチやらないで、さっぱり終わらせるところが鬼らしいけど。
救急箱を持って、仲間に囲まれた桃城くんの元へ向かった。
個々の心情、人知れず
(傷ついた様子はなかった)