笑って、嗤って、翻す

□やっぱ怖い
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「原稿作成は終わりましたか?」




黒部は相変わらずモニター画面に身体を向けているため、表情は見えない。

怒ってるの?それとも運良く聞かないでくれた?

声色は普段と、何ら変わりないけど。


あとさりげなく黒部の隣にニコニコしながら立っている斎藤さんが気になる。




「終わりました」

「そうですか。では、今日はもう上がってください」

「ほんとですかっ…」

「ええ、疲れたでしょうし。10時には私たちも切り上げます。お疲れさまでした」

「お疲れさまでした!」




こんな深く頭下げたの、いつ以来だろう。

いいとこもあんじゃない、なんて上から目線で言ってみる。

いやー現金な女でゴメンネ。




「あ〜、中山さーん」




チッ、誰だ私を引き止めるのは。

だがしかし分かってる。分かってるぞ、この口調。

振り向けばやはりあの無駄に背の高い人がいて。

一回「視界狭くなるんでどいてください」って言ってみたいわー。

傷つくかな、あ、でも逆に仕返しされそう(仕返しってなんだ?)。




「ちょいちょい」




口で効果音なんかつけちゃって。

手招きって、え、なに、言いたいこと?

自分の口元に手をそえて口をパクパクすんのやめてくれないか。

少し可愛いって思っちゃうから。


言われるまま斎藤さんの方に耳を傾ける。

斎藤さんは長い足を折り曲げて、私にこう耳打ちした。




「明日、覚悟しときなさいヨ」






やっぱ怖い

(もう口に出して悪口言うのはやめよう)

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