連載
□言ってしまった本心
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北斗を好きだと自覚してから、なんとなく意識してしまう。でも意識すればするほど、わかるのは北斗の乙女への想い。
『はぁー』
「ズバリ、恋の悩みね」
今は放課後。乙女たちはみんな部活だから私となるちゃんだけが教室に残っている。
『ピンポーン、正解です』
「相手は今井北斗」
『…なるちゃんはそこまでわかるのか』
まぁなるちゃんは結構感が鋭いから、隠すつもりはないけど。
「今井が好きだけど、今井は乙女が好きだから告白できない」
『なるちゃんすごいよ』
最近北斗から乙女のことで相談を受けたりしているのに、北斗に告白するなんてできないもん。
「すれば?告白」
『そんな簡単に言わないでよ。なるちゃんには周がいるからってさー』
実はコスプレコンテストのあとに乙女、南、アイコ、周、なるちゃん、私の6人で打ち上げをしたところ、周となるちゃんが付き合っていることがわかったのだ。
「好きなら告白するのが普通でしょ?」
『でも「由依香」
不意に名前を呼ばれ教室の入り口を見ると、北斗が鞄を持って立っていた。
『どうしたの?』
「…今日、いいか?」
つまり乙女についての相談というわけね。
『いいけど。ごめんね、なるちゃん。またね』
「頑張って」
なるちゃんの言った“頑張って”の意味はすぐにわかったが、私はあえてスルーした。
「今日、店休みだしオレん家来る?」
北斗の家はお父さんがカフェをやっているって聞いたことがある。私は北斗の問いに頷いた。
―…―…―…―…―
北斗に連れられて来たのは可愛らしい外見のカフェ。普通に正面の入り口から入っていく北斗のあとを私もついてった。
「…待って」
北斗の部屋に行く途中、厨房の横を通ろうとしたら止められた。北斗はジッと厨房の中を見ているが、私の位置から中は見えない。
『なに、どうしたの?』
「……」
北斗は私の問いに答えず、自分の持っていた鞄を厨房の中に投げた。
「家でエロいことやめてもらえます?おにーちゃん」
そう言って厨房の中に入っていく北斗。
「え!?今井くん!?」
「北斗てめぇ!」
中から聞こえた声に驚き、私も厨房に入った。
『南、乙女』
「え、由依香!?」
「なんで由依香が…」
「――てか、あれ?おにーちゃんて?今言った?」
「そ、だってオレらキョーダイだもんね。そいつの元親父=オレの親父なわけ」
北斗のまさかのカミングアウトに驚く私と乙女。どうやら乙女も知らなかったみたいだ。
「え、マジでキョーダイ?南が今井くんのお兄ちゃん!?」
「あんたのもの、一個くらいもらっていいよな!おにーちゃん」
わたわたと驚きを隠せない乙女に、北斗はそう言って乙女を引き寄せた。そして、
――乙女にキスした。
『…っ』
キス、した。北斗が、乙女に。
その瞬間、南が北斗を殴った。
「北斗!てめぇ!」
「へー、姉ちゃんのこと好きって認めるんだ?」
「………好きじゃねーよ」
南がそう答えると乙女はカフェを飛び出した。南はそのまま自分の部屋にいった。
「オレあっさり、姉ちゃん手に入れられそーじゃん」
――パンッ
『馬鹿じゃないの?』
「由依香…?」
『あんなことして、乙女が傷つくに決まってるでしょ』
「知るかよ。あーでもしねぇと、オレのこと見ねーじゃん」
『だからってあんな…!』
「オレがどうしようが、由依香には関係ねーだろ」
確かに私には北斗がどうしようが関係ない。南と乙女の間に割り込もうが、それは北斗の自由なわけで。
だけど……。
『……き…から…』
「は?」
『好きだから、乙女と北斗がキスするの見たくないのよ!!』
「え…あ、由依香!」
私は涙を溢れさせながら北斗にそう言い、カフェを飛び出した。北斗に名前を呼ばれたが、今は立ち止まれないよ…。
告白なんてするつもりなかったのに。北斗があまりにも無神経だから、つい言っちゃったじゃん。……私だって、北斗と乙女の間に割り込んでんじゃんか。
好きと言ってしまった以上、もう後戻りはできない――。