連載
□君から離れるために
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その日は南もどっか行っちゃうし乙女もさきに帰っちゃうしで、結局1人で帰路についた。
…いつもは3人で通る道も1人だと広く、長く感じる。
『……あれ?』
マンション近くまで来たとき、ちょうど乙女が今井を引っ張ってマンションに入っていくのが見えた。
『なんで乙女と今井が…』
家に帰ってからも乙女と今井のことに疑問を感じたが、なるべく気にしないようにしていた。するとしばらくして羽崎家の方からバタバタと慌ただしい音が聞こえた。
乙女に電話すると、どうやら南が熱で倒れたらしい。心配ないと言われたがやはり心配してしまう。
お母さんに南のことを話すと、後で果物でも持っていきなさいと言われた。
―…―…―…―…―
「あら由依香ちゃん、いらっしゃい!乙女と南なら部屋にいるわよ」
『お邪魔します』
お母さんが買ってきてくれた果物を持って羽崎宅にいけば、2人の母親が笑顔で出迎えてくれた。おばさんに軽く挨拶をし、私は2人の部屋に向かった。
部屋の前まできてドアノブに手をかけようとした時、声が聞こえた。私は思わず伸ばした手を引っ込めて聞き耳を立ててしまった。
「乙女…」
「ん…?」
「ずっといっしょにいよーな」
「うん。ずっと…いっしょ…だよ…」
私は果物がはいった紙袋をドアの前に置き部屋の前から離れた。
「あら、もう帰るの?」
『はい。2人とも寝てるみたいなんで』
「ごめんねー」
―…―…―…―…―
『ずっといっしょ、か…』
……――プルルルル、プルルルル
部屋のベッドでゴロゴロしていると突然なった携帯。開くとそこには南の名前。
『…はい』
「由依香?…俺さ、修行してくる」
『修行?』
「俺の実の親父がこの近くで店開いてんだ。だからそこで」
『乙女には言った?』
私がそう聞くと黙ってしまった南。乙女に言うわけないと、わかっているのに聞いてる自分が馬鹿らしい。
『言わないの?』
「言わねーよ」
『店の場所も?』
「…それは由依香にも言うつもりはないよ」
『私はいいの。……本当にそれでいいの?』
「…いいんだよ」
『…そう、なら私も止めないから。修行頑張ってね』
――プチッ
私は南の返事も聞かずに電話を切った。…本当に、素直じゃないんだから。
『一緒にいたいなら、いればいいのに』
でもこれが、南なりの愛し方なのだろう。私はそのまま眠りについた。
朝、いつもより早く起きてベランダから下を見ていた。すると南が出てきてマンションの、多分乙女の部屋に向かってなにか呟き、そしてそのまま行ってしまった。
『………馬鹿……』
私は南を見送ったあと、1人で学校に行った。
―…―…―…―…―
『周』
「由依香?珍しいね、どうかした?」
『…ちょっと話せる?』
学校へ行くとやっぱり周はもう登校してて、私は話があると周を非常階段に呼び出した。
「話って何?由依香が告白とは思えないけど」
『羽崎キョーダイのこと』
私がそう言うと、さっきまでクスクス笑っていた周は笑うのをやめた。
「…南と羽崎がなに?」
『今日から周にとってはチャンスだけど、乙女泣かしたら許さないから』
「……は?」
『それだけ、じゃあね』
「おい、由依香!」
それから私はチャイムギリギリまでウロウロしてた。だから教室に入れば南がいるわけで。
「あ、由依香」
『…おはよ』
「おはよ」
「こら、席に着けー!」
タイミングよく担任が入ってきたので、私も南もそれ以上言葉を交わすことはなかった。
「セーフ!」
「アウトだ羽崎」
チャイムが鳴り終わったと同時に教室に入ってきた乙女。担任に頭を軽く小突かれていた。
そして乙女が席に座るために南の横を通ったとき、南と乙女は目があったみたいだから南がサッとそらした。
ショックを受けてる乙女に声をかけようとしたとき、今井が不思議そうに乙女を見ていた。