連載
□南の限界
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「南のまえのお父さんかー…」
放課後、非常階段で乙女とアイコとなるちゃんと私の4人でお菓子を食べていると、乙女がそんなことを呟いた。
なんでも南のまえのお父さんが南に話があると言ってきたらしい。
『でもそれは南の問題でしょ?私たちは何もできないよ』
「た、確かn カ――ンッ
いきなり音がしたかと思えば、そこにいたのは今井。今井がアイコの缶ジュースを蹴ったのだ。
「ほげー!あたしのピーチミルクー!」
「通行のジャマ」
今井はそう言ってそのまま通り過ぎようとする。
「ちょっと今井くん!だからってねー」
「……」
「……うっ、」
アイコの缶ジュースを蹴ったことを怒ろうとするが、今井の睨みに負けてしまう乙女。
そのあとはアイコが弁償しろとしつこく今井に言い続けたので、結局今井が面倒くさくなりアイコにお金を渡すとさっさといってしまった。
少ししてチャイムが鳴ると乙女は部活があるからと武道館へ行き、アイコとなるちゃんは買い物に行くといって帰って行った。
私は1人教室で時間を潰すことにした。そしてそろそろ帰ろうかと思った時だった。
『あ、雨…』
―…―…―…―…―
いきなり雨が降ったが私は折りたたみ傘を持っていたから大丈夫だった。雨に濡れたアスファルトを歩いていると、傘もささずに自転車を止めてジッとしている南がいた。
『南?あんた傘もささずになにやって…』
そう言いながら南の視線を辿ると、…そこには周と乙女がいた。
「なんか、オレばっかり羽崎のこと好きな気がする」
そう言った周に自分も好きだと乙女が伝え、2人はキスをした。それを表情1つ変えずに見つめる南。…私は、ソッと南も入るように傘をずらした。
―…―…―…―…―
『うち、寄ってけば?今帰って乙女と会うの、嫌でしょ?』
あのあと何も話さずに帰ってきた私たち。そして自分の家に入ろうとする南に私はそう言った。すると南は大人しく頷き、私と一緒にうちに入った。
『はい、とりあえず拭けば?』
私の部屋に通し、タオルを渡す。私が南を見つけるまで雨にうたれていたのだ。濡れていないわけがない。
『…嫌なら見なきゃ良かったじゃない』
「俺だって帰ろうとした。だけど、気になんじゃん」
『ほんと馬鹿。それでまた傷ついて寂しくなるのはあんたでしょ?』
「わかってるけど気になんだよ!」
さっき2人のキスをみたから少し混乱している南。なのにわざと挑発するような言い方をする私。
『いい加減、諦めたら?』
「……うるせーよ!」
――ドサッ
その音と共に私の視界は揺れ、落ち着いた時には南の顔が目の前にあった。そしてその後ろには天井が。…つまり、私は今南に押し倒されている状態。
『なにしてんの、馬鹿』
「好きなんだから、しかたねーだろ…」
いつになく弱気な南。そして、……南は私にキスしようと顔を近づけてくる。
『私は乙女じゃないよ』
唇が触れ合う瞬間、私はそう言った。南はそれに反応する。
『今あんたが私にキスしても、私は乙女じゃない。乙女だと思ってキスする気?』
「っ、ごめん、由依香…」
南はそう言いながら私の上からどいた。そして私も体を起こす。
『いいよ。…ほら、そろそろ帰ったら?』
私がそう言うと、南はもう一度謝ってから帰って行った。
『乙女は、気づいてくれるから…』