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□振り返らないよ
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翌朝
陽がのぼるちょっと前
ローズは、師匠が起きないようにソーッとリビングへ行くと、テーブルの上に、師匠宛の手紙を残した
これまでの感謝の気持ちを綴った手紙だ
『…………』
手紙をジッと見つめるローズ。なんだか急に寂しい気持ちが胸の中にいっぱいに広がった
今日までの、師匠と過ごしてきた日々を思い出すと、目頭がじんわりと熱くなってくる
ローズは溢れる涙をグッと堪えると、そのままコッソリ家を出る事にした
スッ───
ローズが玄関のドアノブに手をかけると、その後ろから師匠の声が
「行くんだな、ローズ」
『……師匠』
ローズが振り返ると、そこにはいつもと変わらない、ボサボサ頭で、無精髭を生やした師匠が居た
「ここに残ってくれるんじゃないか……なんて、俺は少し期待してたんだけどな」
『……っ』
「ふっ、冗談だ。そんな顔をするな。昨日は驚かせてすまなかったな……」
師匠の大きな手のひらが、ローズの頭にポンと乗っかった
手の温もりも、いつもと変わらない。優しく、自身を前へ導いてくれる手だ
『……ねぇ、師匠。いや、ガルドさん』
ローズは、師匠にギュッと抱きついた
「っおい……!」
さすがの師匠もこれには驚き、ほんのりと頬を赤く染める
ローズは、そんな師匠の胸に顔を埋めながらゆっくりと口を開いた
『……僕の好きは、ガルドさんの好きとはちょっと違うけど、僕はガルドさんが好きだよ。大好きだ……』
「ローズ……」
『ガルドさん、僕……もうここへは戻らないから』
そう言うと、ローズは目一杯背伸びをして、ガルドさんの頬にソッと口づけた
『ガルドさん、今までありがとう……!僕、行くよ!』
ローズは、ニッコリと師匠に笑顔を見せると、くるんっと背中を向ける
ガチャッ───
ドアを開ければ、顔を出したばかりの太陽がローズを出迎える。ギラギラと眩しくて、ローズは思わず目を細めた
雄大な自然が目の前に広がる。ローズが迷うことなく一歩、二歩と足を踏み出すと、ビューっと風が吹いて、ローズの背中を後押しする
今この時からローズは、本格的に“復讐”という茨の道の上を歩んでいく
『さようなら──……師匠』
振り返ることなく前を進むローズの頬に、一筋の涙が伝った……
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