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□突然の事だった
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都会から少し離れた場所にある、オウソーレ山
山の頂上にある、大きなウッドハウスで、ローズは師匠と2人で暮らしていた。
「なんだローズ……起きてたのか」
『ふぁーあっ!さっき起きたんだ……。おはよう、師匠っ!』
ローズは、うーん、と伸びをすると、おもむろに冷蔵庫へ行き、コップに牛乳を注いだ
嫌な夢でもみたのだろうか、ローズの着ているパジャマは大量の汗で湿っていた。
「あぁ、そうだ。ローズ、お前に話があるんだ」
『ん、僕に話?』
───なんだろう?
師匠の呼び掛けに、ローズは牛乳をゴクゴクと一気に飲み干すと、ソファーに座っている師匠の前に立った。
『師匠、話って?』
ローズが師匠に声をかける
師匠の側に行くと、コーヒーの良い香りがした。
「ローズ、お前……天空闘技場に行け」
『え?天空……闘技場?』
“天空闘技場”
聞いたことがある、天空闘技場って確か“野蛮人の聖地、格闘のメッカ”とか呼ばれるところで
戦いを望む者には最高の場所だとか
『ん……でも、なんで?』
「修行の一貫でだ」
師匠の低い声が響いた。
『あぁー……!なるほど、悪くないね!僕、天空闘技場に行くよ!』
ローズは、活き活きとした表情で握りこぶしを高く上げた
師匠は、そんなローズを、無表情で見つめる
「……それでだ、ローズ」
『うん?』
「お前……ここを出たらもう、戻ってくるな」
『え……っ』
ローズは、師匠の言葉を、瞬間に理解することが出来なかった
『な、なんでっ、どうしてっ!?』
「天空闘技場では、勝てば勝つほど金が手に入る。ローズ、お前の力ならすぐに200階クラスには行けるだろう」
『し、師匠……?』
「ファイトマネーで暮らせ。自立しろ」
『……そ、そんな、なんで急にそうなるんだよっ!』
ローズが怒鳴り声に近い声を上げれば、師匠は伏し目がちに黙り込んだ。
『……ねぇ師匠、僕は師匠を家族だと思ってるんだ』
「そうか」
『……っ、僕はてっきり師匠もそう思ってくれてると──』
──だからそんな急に、突き放さないで欲しいんだ……
「……ローズ。俺も、お前を家族だと思ってる」
『じゃあ、どうして……』
「でもそれは、過去の話だ。ローズ、俺は今、お前を家族だと思ってない」
『そんな……師匠、僕は……ぼく、は……』
師匠にそんなこと言われたら、ローズは泣きそうだ。
眉を八の字にして、目に涙を浮かべた
「っ、すまないローズ。……正確に言えば、家族だと思えなくなったんだ」
『……師匠?』
「俺は、ローズ……お前を、一人の女として愛してしまった」
『……えっ』
「16も歳が離れているというのにな……可笑しいだろ?」
師匠が自嘲気味に笑った。
……な、んだって?
師匠が、僕を一人の女として愛してるって?
ローズは混乱した
───言葉が出ない。
「……俺は、このままお前といれば、お前がしようとしていることを全力で止めるだろう」
ローズがしようとしてること
それは───
“アイツへの復讐”
「俺はお前に復讐なんてしてほしくない。これが本音だ」
『……っ』
「だが、お前は復讐を糧に生きてきた。俺は、そんなお前にあらゆる武術を教えた。だからな……最後は師匠として、お前と別れたいんだ」
そう言って師匠は、ローズに黄色がかった封筒を渡した。
『……これは?』
「開けてみろ」
師匠に言われるがまま開けてみると、中には飛行船のチケットが入っていた
「ローズ……明日、ここを発つんだ」
『あし……た』
「そうだ、だから今日は荷物をまとめておけ。俺からは……以上だ」
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