刀涙

□十二の声が響く
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ぽかぽかと暖かい日差しに目を細める


「あぁ、今日もいい天気」




あれから幾年経ったのか…



みんなの分までとみっともなく、意地汚く生き延びて、気付けば十年以上も経っていた



「何十年経っても独りは慣れないわね」


また春が来て夏が来て、秋が来て冬が来る……。



「会いたいな…」



ぽつりと呟かれた言葉はこの暖かい日差しに溶けていった



「昔だったらー…」


春は白鷺と日向ぼっこしながらお昼寝したり、蜜蜂や蟷螂さんと薬草を積みに行ったり
夏は川獺や蝙蝠とよく釣りに行ったりしたなぁ
狂犬ちゃんや鴛鴦さんと海行って恋バナしたり…、楽しかったなぁ
秋はみんなで秋の味覚を狩りに行ったり、人鳥と紅葉狩りに行ったり(あの時は鳳凰様が紅葉の色に紛れて探すの大変だったなぁ…)
冬は蝶々と組み手したり半ば無理矢理海亀に、寒中水泳やら乾布摩擦をさせられたり、蝙蝠に川に落とされたり、散々な季節なんだよなぁ…



個性の塊のようなメンツだけど、思い出すのはふざけ合って笑った日々



「………兄さん」


唯一の肉親だった兄さえもういない



左右田右門左衛門

否定姫の懐刀







ーーーお前だけは殺せなかった






何十年も前なのに、色褪せて顔すら思い出せないのに
みんなに会いたい、寂しいよ


しわくちゃの顔を更に歪める





……あぁ、なんだか眠い





春の陽気だからかなぁ









†††






ふと目を開ける


自分が立っていたのはなくなった筈の真庭の里


「え………?」



どういうこと?
真庭の里は…人は鳳凰様が殺して……潰したはず


なんで?



「きゃはきゃは」



懐かしい独特の笑い方に弾かれたように後ろを振り向く


白蛇は目を見開いた


「あ……な…え……」


「どうしたよ?まさか俺の顔忘れたとかじゃねぇだろうな?」


きゃはきゃはとまた笑う
楽しそうに、笑う笑う



見慣れたキャップに肩口で切られた袖に巻かれた鎖



蝙蝠だ………


冥土の蝙蝠だ…真庭蝙蝠だ!!



「あ、あ……あぁ…!!」


白蛇は蝙蝠に勢い良く抱き付いた


「会いたかった!!会いたかったよぉ………!!」


「今まで独りでよく耐えたな」


優しく頭を撫でられる
そうして、自分は死んだのだと理解した
自分の手を見るとしわしわの骨と皮だけの手ではなく若いハリのある手だった




「行こうぜ、向こうでお前をみんな待ってんぜ♪」



きゃはきゃは



きゃはきゃは




ガポッ


頭に衝撃が来たかと思い頭を触るとこれまた懐かしい被り物


「これ……」


「きゃはきゃは、もうあっちに未練はねぇか?」

「え…」


「あっちに行ったらもう戻れねぇからな」



またきゃはきゃはと笑う蝙蝠


それを聞いた白蛇は、ふっと笑った


「あるわけないじゃない」


きっぱりと言い放った白蛇



蝙蝠はまたきゃはきゃはと笑った
だが、複雑そうな笑い
苦笑いともとれる笑い



「案内してよ。冥土の蝙蝠」


今度は蝙蝠がふっと笑った



「んじゃ、天獄にご案内〜♪」









 

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