影涙

□勝ち逃げ
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「だぁぁ!!まぁた負けた!!!」


「あはは!惜しかったな〜、大輝」


くっそー…と拗ねたように唇を尖らして寝っ転がる少年、青峰大輝


青峰は拗ねたような表情から笑顔になる




次は負けねー


そう言う青峰に挑戦的に笑う咲



漆原咲

コイツは俺の中で最強…、いや、無敵だった



アイツは強かった

とにかく、バスケでも喧嘩でも心でも

誰よりも強かった

才能が開花して相手になる奴なんて一人もいなかったのに、アイツは、咲だけは変わらず俺の前にいた



俺は男でアイツは女、力の差なんて歴然のはずなのに
だけど、何度挑んでも一度も勝てなかった。



けど、悔しい反面、凄くそれが嬉しかった。

俺と対等にいてくれる
コイツを負かすまで、俺はまだバスケを楽しめる!!


だから俺はサボリがちな練習にもちゃんと出た


アイツに勝つ為に





その頃のバスケは本当に楽しかった



けど



そんな幸せも突然崩れ去った





「咲が……事故?」


赤司に告げられたのは、咲が…崩れた荷物の下敷きになったと。


「な……んで…」


「詳しくは分からない、だが、事情は分かっている」

赤司は無表情だが、その瞳には確かに憤怒が見える
隣にいる紫原からは抑えきれない殺気が溢れ出ている
紫原は咲と特に仲が良かった、だから今の紫原の気持ちは手に取るようにわかる。


誰が咲をこんな目に遭わせたんだ……ってな


正直、いつ暴れ出してもおかしくない様子だ。



「特に脚の怪我が酷いらしい…、医者の話からして恐らく……」



もうバスケは出来ないだろう。




赤司の言葉に目の前が真っ白になった




いま……なんていった?




さきが…




もう………バスケ…






できない……?







うそ…だ……ろ…?



俺の唯一の目標が

理解者が…、ライバルが





「………咲は…」


カラカラに渇き、掠れた声でやっと絞り出した


赤司はまだ分からないと言うように首を横に振った




紫原の悲痛な叫び声が遠くで聞こえた










††††








帝光中対松葉中
185対34


帝光中対浜海中
203対33


帝光中対桶山中
175対20


帝光中対陽射中
210対53


帝光中対西薪中
198対65




「咲……、つまんねぇよ」


シュルシュルとボールを指先で回す青峰


静かな体育館

そこは薄暗く、今いるのは青峰のみ


「結局、俺はお前に勝てないまま……」


シュルシュル


勝ち逃げかよ


吐き捨てるように呟く、しかしその呟きは自嘲気味ているようにも聞こえた



シュルシュル


「俺に勝てるのは咲だけ…」

言い掛けてハッとする


咲はもう、俺の前にはいない



「俺に…、俺に勝てるのは………………俺だけだ」




シュルルル……ル…ッ


やっと止まったボール
ダンッと体育館に落ちると静かな体育館にはよく響いた



静かな体育館

鼻を啜る音がしたのを最後に体育館から音は消えた


青峰がいなくなった体育館


そこにはただゴールとステージが存在する薄暗い体育館があるだけ

否、コロコロと転がるボールが一つ、虚しくそこに落ちていて壁に静かにぶつかった


















Fin


(誰か俺に勝って)
(俺を負かせて……)

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