影涙

□春の日差し
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「さきちーーん」


「………重いんだけど」


敦、と名前を呼べば先ほどよりも寄りかかってくる紫色の物体


さっきも言ったが、重い

そりゃそうだ、体重がえー…と何sだっけ、70sだっけ?………まぁいいか

とにかく重い、そして椅子に座ってるから落ちそう(変な座り方をしていた数分前の自分を殴りたい)



「あーつーしー重いよーあたし潰れちゃうよー」




後ろから「それはヤダ…」と小さく聞こえて、すっと重みが消えた






「今日はまたどうしたの?」


「だって…」


2m近くもある巨躯である紫原はまるで叱られた犬のようにしゅんと縮こまる



「嫌なことでもあった?」



涼太のアホがなんかしたか?



ぼんやりと考えていると紫原は今度は正面から抱きつく、否、飛びついてきた



ガタンと大きな音を立てて椅子が倒れる
恐らく端から見れば押し倒されているような感じだろう




言い忘れたが、ここは教室だ

因みに放課後




せ、先生が見回りにくる…!!


倒れたのに後頭部が痛くないのは敦の手のおかげだろう、……コイツが悪いんだけどな



「い、いきなりなにすんの!!」

「んー?」


首筋に鼻先を近づける
スンスンと犬のように咲の匂いを嗅ぐ




「さきちん、最近遊んでくれないしー」


いっつもなんかおっかない顔して考え込んでるしー



「あつし……、」



「お菓子食べよ、さきちん」



甘いもの食べると幸せになれるんだよ〜?



そう言う紫原に咲は「知ってる」と呟いた




「さきちん、好きー」


可愛くてちっちゃくて頑張ってるさきちんが大好きーっ、そう言いながらぎゅうぎゅうと抱き締めてくる



ってか、ちっちゃい言うな





「敦、敦」


「んー…」


「ありがとうね」



へらりと気が抜けたように笑う紫原



「ほら退いてー…「お前達なにしてるんだ!!」


なんてベタすぎるタイミング……。
お前どっかで見てただろ!!!って言いたくなるようなタイミングで登場とか…

何してくれてんだ河童頭!!




「「転びました」」


「お、おぉ、そうか…随分凄い転び方をしたな」


まったくだ
随分凄いタイミングで現れたなクソがっぱ。あぁ、ほら、敦が凄まじく不機嫌になっちゃった…



河童教師は「さっさと帰るんだぞ」と言って去っていった



マジ河童だったわ、テカってたわ…てっぺん



紫原は咲から退くとまたすんすんと咲の匂いを嗅ぐと肩口に額を押し付ける


「咲ちん、あんまり無理しちゃヤダよ?」



あぁ、もうっ!!


何でコイツはこんなにー…っ




ポンポンと軽く背中を叩く





「ありがとう、もう大丈夫だからさ!」





あたしの心の闇を溶かしてくれるんだろう






「帰ろっか」


咲が立ち上がり、紫原に手を伸ばす


紫原はふにゃりと気が抜けたように笑うとその小さな手に自分の手を重ねた


「うん、帰ろっかー」












(大大だぁーいすきな咲ちんが笑ってくれるなら)
(俺は)
(何だってするよ)




Fin
 

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