お題小説
□教会
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あるクリスマスイヴの夜のこと。
『ねぇパパ』
『なんだ?眠れないのかい?』
『パパとママはどこで出会ったの?』
その言葉に、ふと彼女との出会いを思い出した。
──7年前。
しんしんと降り積もる白い雪。
世の中はクリスマス一色で、いつもにぎやかな街も、今日だけはひっそりと息を潜めていた。
「…寒いな」
サクサクと軽快な音をたてて歩く。
振り替えれば自分1人だけの足跡で、ちょっと寂しくなった。
「寒い、ですな」
いきなり声をかけられて、驚いて横を向くとそこにはこじんまりとした老人。
白髪と立派な髭の間に見えるエメラルドグリーンの瞳はにっこりとほほ笑んでいた。
「あ…寒いですね」
誰もいない街に、自分とその老人だけ。
なんとなくその老人はサンタクロースのようだと思った。
「どちらへ向かわれるのかな?」
「教会に」
毎年クリスマスは教会へ向かう。
3年前の今日、亡くなった彼女に会うために。
老人はさらに目を細めほほ笑むと、ゆっくりと口を開いた。
「君に、クリスマスプレゼントをやろう」
「え?」
「なにか、欲しいものはあるかな?」
いきなり何を言いだすのかと思った。
クリスマスプレゼントだなんてもらったことなんてなかった。
幼い頃に育った孤児院は、ひどく貧乏で子供1人1人なんてプレゼントはなかったし、独立してからも家族なんていないから当たり前だった。
唯一彼女がプレゼントだった。
神様から与えられた“出会い”というプレゼント。
それも去年に失った。
クリスマスプレゼント…欲しいものがあるとしたらそれは、
「家族…」
自分の言葉に老人は少しだけ目を見開いたが、またすぐに笑顔に戻った。
「Merry Christmas…
良いクリスマスを」
そしてそれだけ言って去ってしまった。
「なんだったんだろう」
ちょっとした悪戯か?
そう思い、教会へと急いだ。
遠くで鈴の音が聞こえる──
そんな気がした。
『パパとママはその教会で出会ったんだよ』
『わぁ、それじゃぁそのおじいさんはサンタさんだったのね!?』
『ふふ、そうかもしれないね。
さぁ、もう寝なさい。
早く寝ない子にはサンタクロースは来てくれないよ?』
『はぁい、おやすみパパ』
『おやすみ』
クリスマスプレゼント…欲しいものがあるとしたらそれは“家族”──
END
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