お題小説

□紺碧
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「なぁ、お前、幽霊が見えるってホント?」

「は?」

昔の感覚がよみがえった。
体中が痺れていく感覚。
あ、まずい。
そう思いながら、平然とした態度を取ろうと努力した。

「見える訳ねぇだろ。なんなんだよ」

俺が怒っているのに気付いたのか、相手はごめんと一言謝った。

俺は本当に幽霊なんか見えない。そんな存在信じてない。
でも昔は俺が幽霊が見えるって噂を流されてた。
そんな言葉、もう聞かないだろうと思っていたのに。
一気に崩れ落ちる感覚が全身に広がって、また俺を蝕んでいく。
制服のポケットの中に手を入れ、そこにある薬をぎゅっと握り締めた。

「なぁ、なんでお前っていつも1人なの?」

まだいたのか。
なんなんだよいきなり。
俺に声をかけてきた奴は同じクラスの西松って奴で、明るくてみんなから好かれてて、つまりは俺と正反対。

「別に」

俺はいつもクラスで1人孤立していた。
1人の方が楽だ。失うものが少ないから。

「つまんなくねぇ?」

「俺は1人がいい」

もう話かけないでくれ。頼むから。
いきなり幽霊が見えるのかと尋ねられた人間とおしゃべりをするほど俺も寂しがり屋じゃない。
思いきり睨んでやったらにこりと笑われた。
なんなんだ。

「俺、西松。西松 碧斗。あおとって漢字かっこよくねぇ?」

高校に入学して3ヶ月。
いくら他人に興味がない俺だって、クラスのある程度の名前なら知ってる。
なのに何でコイツは自己紹介からはじめてるんだ?

「名前なら知ってる」

溜め息混じりに答えると、あおとって呼んで、なんて言われてもっとイラついた。

「だから何?用事ないなら俺に話かけるな」

こんなにも突き放す言い方をしてるのに相手に全くへこむ様子はなくて。

「友達になりたいっていうのは用事にならない?」

なんて言われた。
馬鹿かコイツ。





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