お題小説

□花言葉
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俺の幼少の頃は、この辺一帯にこんなにもビルはなかった。
中流階級の家々が並び、比較的子供の声がよく聞こえる地域だったと思う。
そんなところで、俺は貧しくもなく、かと言って裕福でもない日々を過ごしていた。

中流階級の家…といっても、その中には金持ちの家もあった。
少し高台にある、“いかにも”というような大きな家。
小さい、とは言っても明らかにウチの10倍はありそうな洋風な造りの庭。もちろん建物も洋風で、子供の頃は友人と、誰が一番その庭の奥まで侵入できるか競いあっていたものだ。

その日も、確か遊び友達と庭に侵入した時だったと思う。
庭に侵入する時は、肝試しと同じ要領で、1人ずつ入っていく。ジャンケンで侵入順を決めたら、一番最初になってしまった。

その日は普段よりも奥へ入ることができた。
今日は自分が1番だと、意気揚々として庭を進んでいた時だと思う。
誰かに声をかけられて、驚いて心臓が口からでそうになった。

「誰?」

綺麗な、澄んでいる声。
振り返ると、ひらひらとドレスのような服を風になびかせて、かわいらしい女の子が立っていた。
肌は驚くほど白く、頬はほのかに淡い桃色で。
一瞬にして、その子のとりこになってしまった。

逃げだそうとした俺を、その子はちょっと焦ったような声で止めた。

「待って。行かないで。お友達になって」

俺は逃げようとした右足をひっこめ、それと同時に振り返った。
“お友達になって”…そんな言葉を言われたのは、この時が最初で最後だと思う。




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