お題小説

□硝子
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秋風が吹くようになったこの季節の、この時間の空は暗い。

某ファーストフード店のカウンター席で、硝子に映る情けないほど猫背でハンバーガーを頬張っている自分の姿も暗い。

今日は金曜日。
背後からは若者のきゃあきゃあとした声が響き、この明るい店内に自分は不釣り合いな気がしてならなかった。



会社ではしがない平社員。上司に頭を下げる毎日。
その会社で、今回新しい企画が持ち上がり、その計画書をまかされた。
昇任への第一歩だと、気合いを入れて練りに練った計画書を上司に見せるも、あえなく“却下”の2文字で返された。
その後も何度か立ててはみるが、やはりその2文字で返ってくるのだった。
自分では何が悪いのかわからない。
その計画書は来週の今日までに提出しなくてはならない。焦れば焦るほど案が浮かばない訳で、俺は今、会社を抜けだしてハンバーガーを頬張っている訳だ。



時刻は午後7時をまわった。
晩ご飯時分なのか、店内は人でごったがえしている。
すると、カウンター席で唯一空いている俺の左側の席に人が近付いてきた。

「お隣り、良ろしいですか」

少し控え目な声。
かけられた声に顔をあげると、若いスーツ姿の品の良さそうな女性がプレートを持って立っていた。

「あ、どうぞ」

それに対し、情けなくハンバーガーを頬張ったままの自分。
その女性はクスリと笑うと、失礼します、と礼儀正しく俺の隣りに座った。




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