鬼の末裔
□鬼の末裔 *壱*
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"鬼"──
それは古くから人々を脅かす存在だった。
【鬼】
一、地上の国つ神。荒ぶる神。
二、人にたたりをする怪物。もののけ。幽鬼。
三、死者の霊魂。亡霊。
─鬼の末裔─
「時君<トキギミ>────!!!」
町外れの一角にある道場に響く声。
ここの師範、時一<サダカズ>である。
「はっ、はぃいぃぃい─!!」
そしてたった今、道場の門前で正座をし、時一に名を呼ばれた男が時君。
師範・時一の息子であり、一番弟子でもある。
しかしこの男、威厳ある父をもつにも関わらず、どこか弱々しい。
争いごとが嫌いで、道場一の厄介者。
そしてそんな時君に、遂に時一が痺れを切らした。
「お前は真面目に稽古をする気がないのかぁぁあぁ!!破門だぁ!!」
「っえぇえ!!おっお待ち下さい、父上!!」
「待たぬわぁ!!二度とこの門を跨ぐでないぞ!!」
そう言うと、時一は時君の刀と荷物を放り投げた。
「わっ…ちょ…待ってくだ……父上!!」
時君が投げ出された荷物をまとめる頃には、もう門は閉められていた。
「えぇええぇぇ──!!そんなぁぁあぁ!!」
時君の叫びは、初夏の空へと消えていった。
この出来事が、後の時君の運命を変えることになる──。