ストーリー

□シクラメン
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『そういえば三月なんかすごい奴に声かけられてなかった?』
弥生が挑発的にそして妖艶に言った。それはアタシにではなく明らかに恭チに向けられたものだった。
『そうなの?』
恭チがさほど興味もなさそうに問う。
『アイデンティティな人のこと?』
『なにアイデンティティって!?』
大きくタバコの煙を吸い込み、鯉のように口を開けて指で頬を叩きながら煙の輪を作って一人遊びしていたしぃくんが、なんじゃそりゃと言うような口調で割り込んできた。
『アイデンティティはアイデンティティよ。知らないの?バカじゃない』
しぃくんを茶化してみた。
意味わかんねぇとふてくされるしぃくんに恭チがフォローを入れた。
『ミツキの“アイデンティティ”は“個性的”って意味だろ?』
『じゃぁ個性的って言えよ』
そんなしぃくんの言葉も聞き流す。
弥生が色っぽくミルクティーのグラスに刺さったストローをくわえながら『どうなのよ』と言う目線を恭チに送るのをアタシは見逃さなかった。恭チは冷静に、新しいタバコに火をつけ一口目の深く吸い込んだ煙をフーッと吐き出してから『別に』と弥生に送り返した。二人だけ大人な会話を無言でしていらっしゃる。
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