anniversary(小説)
□連想ゲーム
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『連想ゲーム』
今夜は十五夜だ。
朝からずっと横澤のことが頭から離れなかった。
十五夜といえば月、月といえば……。
「というわけだ。迎えに来たから帰るぞ」
営業部の横澤のデスクの前に立てば、横澤が呆れたような視線を向けてくる……ような気がしたが、実際には珍しくキョトンとした幼い表情で見上げてきている。
どうしたのだろう。
桐嶋の思考回路に腹を立てたわけではなさそうだが……。
横澤のらしくない表情に心配になってくる。
だが、横澤は予想の斜め上にいたらしい。
「知らなかった」
「ん?」
「暴れ熊ってツキノワグマだったのか。てっきりヒグマかと思ってたんだが」
「…………」
営業部内がシーンと静まり返った。
横澤の発言に……。
「横澤」
「あ?」
「俺はときどきお前が心配になるよ」
「ああ?」
眉間に皺を寄せて睨んでくるがちっとも怖くない。
「もう駄目だ。お前可愛すぎ」
ときどき発揮する横澤のとんでも発言は、聞くものを恐怖に追いやるときもあるし、胸をキュンキュン攻撃されるときもある。
今回は営業部の連中を含めて全員心臓を撃ち抜かれたらしい。
ちなみに暴れ熊の種類は『アバレグマ』に決まっている。商品化されればきっと目付きの悪い可愛い熊になるだろう。
十五夜
月
ツキノワグマ
熊
暴れ熊
横澤
今晩のお楽しみ
まさか連想ゲームで横澤から今晩のお楽しみに移行するはずが、いきなり攻撃されるなんて思わなかった。
暴れ熊、恐るべし。
この大事件の所為でその日はすっかり十五夜を忘れてしまった。
おわり