anniversary(小説)

□初恋レシピ―約束編―...お試し
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『初恋レシピ-約束編-』書き下ろし我慢の限界よりp52-54抜粋




「ほら、起きろよ!」
「起きて欲しかったらキスさせろ」
「………っ」
 肩を揺すっていた手が止まる。
 ソラ太を抱いている手とは逆の手が、横澤の後頭部に延ばされた。
「桐嶋さんっ」
「起きて欲しいんだろ?」
「おい…っちょ」
 後頭部を押さえる手に力が込められ、ゆっくりと引き寄せられる。
「それとも、ここで一緒に寝るか?」
 桐嶋の眼が悪戯をしかける子どものようなものから、雄のそれに変わっていく。
 慌てて桐嶋との間に腕を差し入れた。
「待てって!」
 このままでは桐嶋とキスしてしまう。
 望んでいたことのはずなのに、ここまで引っ張られた欲求不満な身体は緊張で強ばって力が入らない。
「横澤、かわいいな」
「馬鹿云ってんな」
「かわいいよ。こんなにガチガチになってるとことか……マジで食っちまいたい」
「おい!」
 すぐ傍の部屋では日和が寝ているのだ。
 いくら望んでいた事とはいえ、状況が横澤に待ったをかけている。
「横澤、選べよ」
「な、何を?」
「ここで俺とキスするのと、このまま俺と一緒に寝るのと」
「……っ」
 云っている間にも、桐嶋との距離はどんどん近くなっていく。
 心臓が早鐘のように響いて、はっきりいって煩い。
 キスするのは良い。
 桐嶋とのキスは気持ちが良いし、嫌ではない。
 だが、一緒に寝るのは……そういう事にならないのだろうか。
 つまり、横澤が【次】を誘いつつ、桐嶋をその気にさせなければならないのだろうか。
 それ以前に、この体勢でキスするのは、まるで自分から桐嶋に覆い被さってキスをするような感じで……。
「横澤」
 見惚れるほど綺麗に整った雄の顔が目の前にあった。
 距離にして、すでに鼻先が触れ合っている。
 唇が触れる直前、身体が熱くなっていく……はずなのだが。
 横澤の身体から一気に血の気がひいていった。
「……桐嶋さん」
「あん?」
「俺からも選択肢出して良いか?」
「何?」
 雰囲気に水を掛けられた桐嶋は、一瞬憮然と眼を眇める。
 横澤はそれに怯みつつ、はっきりとした口調で選択肢を口にした。
「この体勢でキスしない。ここで一緒に寝ない。あんたは大人しく部屋に戻る。俺はここで寝る」
「……それって選択肢か?」
「それが一つで、それか……俺はこのまま支度してタクシーでマンションに帰る」
「………」
 さすがの桐嶋も、黙りこくった。
「……」
「……」
 そして、ようやく桐嶋の口から発せられたのは何とも不満げな、というかすでに呆れ声だった。
「とんでもねぇ選択肢だな」
 これ以上何かしたら帰ると云われた桐嶋の心境を思えば申し訳ないが、横澤にはこの場で桐嶋を誘える自信も方法も何も見つからない。
 桐嶋なら、こんな時間にわざわざ横澤を帰すようなことはしないだろうと思っての選択肢だ。桐嶋の面倒見の良さを逆手にとった最悪の選択肢。


以上です。
お話が気になる方は、是非ともご購入を!

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