短編もの

□迷宮
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『お前もたまには社交パーティに出なさい』

そう父に言われたから、参加した。
けれども、すぐに出た事を後悔した。

「いやだわ。……さまったら」

くすくすと仲睦まじく笑うのは、俺の義姉となる人。

演技だと、仕込まれているからだと、言い聞かせているのに、どろどろとした感情が湧き上がる。


何故、あの女はあの人の隣で笑っている?
何故、俺には笑いかけない?


政略結婚のため。
頭では理解している。
身も心もあの人に惚れるように演技をしているだけ。

「隼人くん。本当に君のお兄さんは良い人だね。安心して、妹を任せられるよ」
「……」

答えるべき言葉はわかっている。
けれども、その言葉が出てこない。

湧き上がるのはただ、嫉妬と言う名前の炎。

こんな事をすれば、また、あの人は怒られる。
また、あの人のせいにされる。
わかっているのに、その衝動が抑えられない。

「義兄さん、ちょっと…」

俺にとっては、どうでも良い女。
笑顔であの人から引き離す。

誰も来ない部屋に引きずり混んで、無理矢理、あの人を押し倒した。
無機質なガラスのような瞳が俺を見つめる。

わかっているこれが本質なのも。
あの女が騙されている事も。


声すら押し殺して、揺れる肢体。
こんな事をしても残されるのは虚しさだけなのに。


「義兄さん…」






どうしたら、笑顔が見れるのだろう。
どうしたら、隣に居られるんだろう。




それは、出口のない迷宮のようで、俺は嵌れば嵌る程、貴方から抜け出せない。

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