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□【2】追憶
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「山本?こっちには来てねえけど、裏門の方に歩いてくの見たぞ」
「裏門ですか。分かりました、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げて、ツナは野球部の部室の扉を閉めた。
クラスメイトの言うとおり山本がツナを一人にする事は滅多にないが、ツナと行動を共にしない時はたいがい入っている野球部関連なので、ミーティングがてら部室で食べているんだと思ったので来てみたけれど、違ったらしい。
「もー、後15分で昼休み終わっちゃうのに」
パタパタと裏門の方に回ると、確かに山本の姿はあったけれど。
「山・・・」
声をかけようとして、つい隠れてしまった。
(京子ちゃん・・・?何でここに)
ちょうど京子は戻るところだったらしく、「じゃあまたね」との声が聞こえてドキンとした。
「じゃあ」「また」。それは、今までにも会っていた事、そしてこれからも会うという事。
中学を卒業してからは、ツナは京子とは会っていない。山本からも、京子と会っているなんて話聞いた事がない。
気を使ってくれたのかもしれないとツナは思ったけれど、黙って会っていると知った今は少し複雑な心境だ。
(複雑・・・?うん?ショックじゃ、ない?)
自分の感情に驚いた。そう、ショックではないのだ。
「!ツナ・・・」
「あ」
名前を呼ばれて顔を上げると、目の前には山本がいた。
「見てた、のか」
「や、今来たばっかり!京子ちゃんが帰ろうとしてた時だったから、その、話は全然聞いてないから。部室いるのかなって思って部室行ったら、先輩が裏門に向かうとこ見たって教えてくれて」
「ごめん!」
ツナの話を途中で遮って、山本はガバリと頭を下げた。
「実は笹川とは何度か会ってんだ。黙っててごめん!でも誤解しないでくれな、付き合ってるとか全然そんなんじゃねえから!」
あまりの勢いに気圧されたツナは、山本が落ち着くのを待ってぽんぽんと肩を叩いた。
「謝る事ないよ。山本は、気を使ってくれてたんだよね。大丈夫、ちゃんと分かってるから」
「ツナ・・・」
「それにね、山本と京子ちゃんが一緒にいるとこ見ても、ショックじゃなかったんだ。自分でもびっくりした。やっぱり、先生に話し聞いてもらったからかな」