時とともに変わらないもの
□10.距離0センチ
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見てはいけないものを見てしまった気分です。
初めて見ました。
人の足が、人の顔面にめり込むところを。
教室に着くと、獄寺君の席の周りに本人不在にも関わらず人だかりが出来ていた。
そしてその中央、獄寺君の席に座って皆と楽しそうに話していたのは、山本が言ってた特徴通りの人だった。
「獄寺君あれって、」
お兄さん?そう聞こうとした俺の手を離して、獄寺君は無言で近付き、クラスメイトの人だかりを無理矢理かき分けてその人の前に立つと。
中学生にしては長い足をおもむろに上げて、椅子に座るその人の顔面を何の躊躇もなく蹴った。
「獄・・・っ・・・!?」
驚いたのはもちろん俺だけじゃない。
今まで笑っていた皆も、突然の獄寺君の行動の意味が分からずに、女子の小さな悲鳴を残して波を打ったように静かになった。
「あっ・・・いたたたた・・・」
蹴られた人はいすから転げ落ちて、痛そうに顔をさすったけどやっぱり目は前髪に隠れてて見えない。
「てめっ・・・どこの世界に久し振りに会った兄貴の顔面に容赦なく蹴り入れる弟がいるよ」
「目の前にいんだろうがよ!そのうっとおしい前髪上げてよく見やがれ!」
ああ、やっぱりお兄さんなんだ。
人間、あまりにも自分の常識からかけ離れた場面に出くわすと、逆に冷静になれるものです。
「どこ飛び回るもお前の勝手だがあれだけ連絡手段は絶つなつったのに、全部解約して日本に行きやがって」
「しょうがねえだろ、日本が最終目的地だったんだ。それに俺はあの国には戻らないし王位も継がない。家を捨てた人間をいつまでも追いかけ回すなよ」
続いたその会話は日本語じゃないから何を話しているかは分からない。
獄寺君の言葉に、お兄さんは頭をかきながら立ち上がって椅子も起こすとまた座り直す。
「そこ俺の席なんだけど」
「知ってる。だから座ってる」
あ、日本語に戻った。
さっきのは「母国語」ってやつなのかな。英語じゃなさそうだったけど。