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□移りし心、その先には
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「人の心なんて簡単に変わるものですよ、10代目」
ツナは耳を疑った。
まさか、獄寺からこんなセリフを聞く日が来るなんて。
「「命令」とあらばこれからもあなたを愛して差し上げましょう。そこから生まれるものは、もはや何もないですが」
「・・・ど、して・・・そんな事、言うの・・・」
「あなたはよほど傷つきたいらしい。俺がわざわざ遠回しに言った言葉の、その意味を知りたいなどと」
「獄寺く、」
「10代目。俺は、あくまであなたの右腕です。これからは、それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもありません」
「・・・友達でも、いてくれないって事?」
「ええ。プライベートでのお付き合いは、止めさせていただきます。素の自分でいられる時くらい、自由になりたいのです」
晴れやかににっこり微笑んだその表情が前は好きだった。
間を詰めて下からのぞき込めば、顔を赤くして面白いくらいに慌てていたのに、今は。
「そのようなお戯れも、今後一切おやめください」
一歩近づけば一歩離れ、けして隙も見せない。
ツナは知らない。
「さあ10代目、いつまでも駄々をこねていないで。あなたは俺のボスなんですから、もっと毅然となさってください」
俺があなたに仕えられている事を誇りに思えるように、と。
表情は笑っているのに、瞳の色がひどく冷ややかな獄寺を。
「―――――ツナ起きろ!!」
「いやだああああ!!」
お腹に感じた強い衝撃と自分の声で、ツナは目を覚ましがばりと起き上がる。
見開く瞳。
ドクドクと激しく波打つ心臓。
短い呼吸。
全身にかいた冷や汗。
「・・・ゆ、め・・・?」
「どうした、大丈夫か」
かけられた声に視線を移し、時計を見れば午前2時。
「あ・・・ごめ・・・もしか、して、起こし・・・」
「大丈夫かと聞いてんだ」
声は厳しいながらも、いつになく心配そうな様子と見た夢の怖さに、ツナの目からはぼろぼろと涙が零れ始める。