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□【2】追憶
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「行人か」
「先生も知ってる?」
「確か、聞いてはいけない事を聞いてしまったら仲間にされるとかいうやつだろ」
「そう。それでね、山本が俺が行人だったらどうするって。先生、山本覚えてるよね?」
「俺の覚えてる山本ってのは、野球ボール渡されると人が変わって剛速球投げる、まともにキャッチボールも出来ない野球馬鹿だけど、間違いないか」
「あははそうだ、野球馬鹿!先生、山本の事そう呼んでた!」
「野球馬鹿とはひどいのな、先生」と言いながらも満更でもなかったらしく、呼べば普通に返事していた。
(やっぱり山本が行人だなんてあり得ない。うん)
「それより、人見知りなカウンセラー、ね。沢田にしちゃ考えたじゃん」
「俺にしちゃ、ってどういう意味ですか」
「悪い悪い」
む、と膨れると笑って頭を撫でてくれる。
「かなり脱線したけどほら、またここ計算間違いしてんぞ」
「ええっ、何度も見直したのにっ」
トントンと獄寺が指し示す場所を、覗き込んだ。
何度か夕食に呼ばれる内、いつもご馳走になってばかりだと申し訳ないと言うので、じゃあツナの勉強見てやってくれやと家光が何の気なしにぽろりとこぼしたのが最初。
今ではほぼ家庭教師となっているが、獄寺についていてもらうとツナも勉強するので、今考えればいい提案だったんだろう。
「じゃあこう?」
「おし、正解」
「やった」
「今度はこっちな」
「えええこっちもするの?」
「おまけだおまけ。お得だろ」
「嬉しくなーいっ」
そんな勉強の様子を、ご飯が出来たと呼びに来たはずの奈々は微笑ましげに見て、そっと扉を閉めた。
「あなた」
再び下におり、テレビを見ていた家光に話しかける。
「2人とも、とても楽しそう。・・・あの頃に比べれば、隼人君も随分笑顔が増えて」
「そうか」
奈々の言う「あの頃」を思い出し、家光はテレビのボリュームを少し上げる。
「見てられなかったもんなぁ、本当に」
『あの人がいないんじゃ・・・生きてる意味なんか、ない・・・』
何日もご飯を食べず驚くほど痩せて、元々白かった肌は更に青白くなり、輝くように鮮やかだったエメラルドの瞳は見る影もなく濁り、まるで生気を感じさせなかった。