5927(短)

□違う未来の、同じ時に。
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後数分で年が明ける大晦日の夜。


「下に降りないんですか?」


自分の部屋で一人、電気も消して夜空を見上げていたツナは、ふわりと体に巻き付いてきた腕に微笑む。


「うん。今年最後と来年最初の空を、真っ先に見ようと思って」


「俺もご一緒していいですか?」


「だめって言ってもこの腕離す気ないんでしょ?」


「当然です」


ツナの髪にキスをして、獄寺も笑う。


「今年も色々ありましたね」


「そうだね」


短く答えて、ツナは獄寺の胸元に頭を預けて自分の体に回っている腕に手を添える。


「今年も、この腕にたくさん助けてもらっちゃった」


ありがとう、と労るように撫でれば、俺の方こそ、と優しい声が耳に届いた。


「今年も、俺の腕の中にすっぽりと収まるこの小さなお体にたくさん守っていただきました」


「小さなは余計だよ」


ぎゅっと抱きしめる力を強くした腕に、ツナは身を委ねて目を閉じた。


「・・・獄寺君俺ね、今でも忘れられない表情があるんだ」


「表情・・・誰のですか?」


「初めて未来に行った時に会った、未来の獄寺君」


「未来の俺・・・」


「・・・あの時未来の俺は亡くなった事になってて、棺桶の中で横たわってるはずの俺が起き上がってて、獄寺君すごくびっくりしてて、でも険しいその表情は悲しみと寂しさと怒りと・・・色んな感情が見えて、それは俺が過去から来た人間だって分かってからも消える事はなくて」


痛いほどに肩を掴んできたあの力強さも、悔しげに何度も謝る泣きそうなあの声も、忘れる事が出来ない。


いや、忘れてはいけない。


客観的に見たも同じなのだ。


あんな形で自分がいなくなってしまったら、獄寺がどんな思いをしどんな表情をするのかを。


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