きかく・はくしゅ
□眠り姫
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「ただいま〜」
毎朝の日課である朝トレから清々しく魔王陛下のお戻りである。
「…あれ?」
何かしら違和感を覚え、ユーリは着替える手を止め部屋を見渡す。
「なに、ヴォルフラム。まだ寝てんの?」
ベッドの住人は無言で身動きひとつしない。
いつもなら「またコンラートと出掛けたのか?」等と朝の不機嫌さと共に浴びせかけられる言葉が聞こえてこない。
「朝飯ちゃんと食ったほうがいいぞ。先に行ってるから早く来いよ!」
それでも返事なしの彼に、まだきっと眠いのだろう、と少し寂しさを覚えたがユーリはそのまま放って置くことにした。
テーブルに置かれた朝食は今日も豪勢だ。
幾ら成長期の高校生でも、まずこの量は入らないだろう。
「おはよう、渋谷。先に食べてるよ」
「あぁ、村田。おはよう」
大賢者と呼ばれる人物は既に食事中である。
「ところで、渋谷。麗しの婚約者様はお目覚めかな?」
ニマっと、意味ありげに笑う友人にユーリは先程までの違和感の答えを見つけたような気がして、目眩いがした。
「村田、何をヴォルフラムに吹き込んだんだよ!」
明らかに悪巧みを孕んだ笑顔だ。
ユーリは食事するのも忘れ、大賢者に詰め寄る。
下手に対応を間違えば、あのわがままプーは後が大変だからだ。
「顔が恐いよ、渋谷。
ぼくは『王子様のキスで目覚めるお姫様』の話をしただけだよ。それが渋谷だとかフォンビーレフェルト卿だとか言ってないし」
またニマっと笑うと大賢者は食事を再開し、ユーリは項垂れながらも、部屋を後にした。
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