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□パートナーは譲れない
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「陛下?グウェンダルみたいになってるよ」

ここ、ここ、とコンラッドは自分のこめかみを指して見せた。
わかっている。
わかりすぎているから腹が立つんだ!
おれが同じようにこめかみを押さえると、コンラッドは笑う。
隠しようがないグウェんダル皺の原因は、今ホールの中央でにこやかに踊っている。


朝から城内は賑やかだった。
眞魔国新年最終行事である舞踏会には毎年、各地から国賓の方々が集まる。
その中には当然、ヴォルフラム目当ての紳士淑女の皆様もいらっしゃるわけだ。
最初の数曲は良かった。
当代魔王とその婚約者の踊りに感嘆の声が上がり、おれの形も様になってきたのかと喜んでいた。
しかし、それは俺の勘違い。
見られていたのはヴォルフラムのほうで、ダンスが終わった途端に囲まれた。
魔王のはずのおれは蚊帳の外。
老若男女問わずヴォルフラムにダンスへの誘いの手が伸びているのを横目に、おれは一段高い席に用意された椅子へと戻っていた。

「取られちゃいましたね」
「別にいいんじゃない?あんなに楽しそうなら」


おれの記憶が正しければ、ヴォルフラムのダンスの相手は今の人で3人目だ。

「ユーリ、そういうのを嫉妬…」
「最後まで言わなくていいよ、コンラッド!!」

コンラッドに言われなくても知ってる感情。
でも、あえて言葉にしたくない。
ホールを見ていたコンラッドは笑いを堪えているようだ。

「ほら、曲が終わったんでヴォルフラムは帰ってきますよ?」

ヴォルフラムはかっこつけて、若いお姉さんに笑顔のお礼をする。
その笑顔が犯罪なんだっての。

「ユーリ、兄上みたいだぞ?」

優雅に階段を上がってきたヴォルフラムの第一声だ。
原因を作ってるお前がそれを言うんだね。
べつに、とそっぽを向いたおれにヴォルフラムは不思議そうな顔をした。

「コンラート?なぜ、こいつは不機嫌なんだ?」
「さぁ?ヴォルフラムが知ってるんじゃないか?」
「ぼくが?…さっぱりわからん。ユーリ、どうしたんだ?」


椅子の肘かけに手を付いて、ヴォルフラムは視線を合わすように屈む。
踊り終えたばかりだからだろうか、ほんのり赤い顔に恥ずかしさを覚えておれは少し視線を外した。

「なんであんなに、にこってしてるんだよ?」
「笑顔で踊るのは相手へのたしなみだ。それにぼくを通して民に王の素晴らしさを伝えられるだろうが」

せっかく外した視線は、ん?と諭すような表情の問いに戻される。
ヴォルフラムの表情はひとつひとつすべてが犯罪だ。

「あのさ、…お前はおれの婚約者、だよな?」
「今さら、なんだ?」

当たり前の事を聞くなとでも言いたそうな表情をしていたヴォルフラムは、ポンと手を打って何かを納得したようにおれに笑いかける。

「なんだ!嫉妬か、ユーリ」
「おまっ…」
「いつまでたっても可愛いな、ユーリは」
「可愛いって、なっ!!」

「あぁほら、曲が変わった。婚約者を見せつけてあげたら如何ですか?」

おれが椅子から立ち上がったと同時に曲が変わった。
タイミング良くコンラッドが声を掛けなければちょっとした喧嘩になるところだったかもしれない。


「ヴォルフラムも。ユーリに変な虫がつかないように立場を誇示していたほうがいいじゃないか?」

ほら、とコンラッドに促されて、おれたちはホールに歩み出た。
そうなんだ。完全なる嫉妬。
だから、会場にいるお客さま方に見せつけるいいチャンスとばかりにヴォルフラムへ手を差し出す。
おれ的にはエスコートしているつもりだ。

「お前もそんなこと出来るんだな」

ヴォルフラムが関心したように笑いながら、手を重ねる。
乗せられた手を強く握りながらおれも笑った。

「お前はおれの婚約者なんだからな!」
「今さら確認の必要もないだろう?」

嬉しそうなヴォルフラムが体を寄せてきて、そっと耳元で囁いた。

「嫉妬してくれて、うれしかった」
「嫉妬じゃねぇよ」

曲に合わせて踊るおれたちに再び感嘆の声が上がりだす。
その声を煽るように、おれはヴォルフラムとおでこをくっつけて笑い合った。

どうぞ、羨ましがって。
こいつはおれの婚約者なんだ。


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