スタジオに入ると、部屋に甘い匂いが充満していることが分かった。
 眉をしかめつつテーブルのほうを見ると、アイスがテーブルで小さめのホール
ケーキを食べていることが分かった。
 アイスは俺に気付いたのか、口の回りにクリームを付けたままにっこり笑って
小さく会釈した。

「あ、ショルキーさん。おはようございます」
「アイス…スタジオ内での食事は禁止だろう。全く」
「ショルキーさんってば厳しいなぁ…今日くらいはいいじゃないですか」

 アイスがスタジオに貼られたカレンダーをチラリと見る。カレンダーの今日の
日付のところには、赤い文字で『アイス 誕生日』と書いてある(これはみんな
で使っているカレンダーなのに…まるで子供だな)。
 俺は小さくため息を吐くと、

「……しょうがないな」
「へへ、ショルキーさんありがとうございます、大好きです」
「今日だけだからな」

 アイスがさりげなく言った『大好き』という言葉に内心ドキリとしながら、自
分も椅子に座ってテーブルの上に楽譜を広げる。
 アイスはケーキをほお張りながら、俺の顔をじっと見てきた。なにかと思いア
イスのほうに視線を向けると、ケーキを一口取ったフォークを近付けられる。

「…なんだ、これ?」
「ショルキーさんも一口どうです?」
「い、いや…俺は甘いもん好きじゃないから…遠慮するよ」
「ふぅん…」

 アイスがケーキを口に含む。が、なにを思ったのか、アイスはそのまま俺に顔
を近付けてきた。

「アイス、なにす……ッ!?」

 肩に両手を置かれたかと思うと、唇に唇を押し付けられた。唇の隙間から、甘
いクリームと一緒にアイスの舌が割り入ってくる。

「っ、ふ…、アイ……ッ」

 アイスの体を引きはがそうと胸を押し返そうとするが、そのまま抱きすくめら
れて、椅子の背もたれに体を押し付けられて逃げられなくなった。アイスの熱い
舌が、口内を好き勝手に蹂躙する感覚に、腰が震える。
 ようやく唇が離れる。白いクリームの混ざった唾液が、唇の橋から零れるのが
分かった。

「っ、アイス! なにするんだ!」
「ショルキーさんにケーキ食べさせてあげようと思って」
「いらないって言っただろ!」
「別にいいじゃないですか」

 アイスはくすくす笑って、再びケーキを食べる。ぶん殴ってやりたいと思った
が、必死で自分を抑える。
 と、アイスがケーキを食べる手を止めて、にやりと笑ってこちらを見た。

「…そう言えば僕、まだショルキーさんから誕生日プレゼント貰ってないんです
よね」
「……は?」

 アイスの黒い笑みに、内心ビクリとしてしまう。なんとなく嫌な予感がしてア
イスから離れようとすると、アイスに腕を掴まれた。

「僕、ショルキーさんからプレゼント貰いたいな」
「へ、へぇ……なにを?」
「それはですねぇ…」

 ガン、と体をテーブルに押し付けられる。楽譜が床に落ちた。
 アイスは俺を笑って見下すと、

「ショルキーさんを」

 そう言って、もう一度甘い味のするキスを落とした。

 ……抵抗しようと思ったが、抵抗したところでアイスは止めはしないだろう、
それに今日は誕生日だし、な……
 だけどシてることはいつも変わらないな、そう思った時には、体はすでに熱を
帯びてしまっていた時だった。

(甘いのは苦手だって言ったのに…)

 アイスの舌は、ずっと甘いクリームの味がした。


END


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