艶恋

□はじまり
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◇応接室にて◇

「理由は分かりました
では今日からここで働いてください」

「本当にありがとうございます」

面接という名の軽い会話をオーナーと話した

志望動機は、半分嘘で半分ほんとのこと

僕が本当にここに来た理由は…まだ言えない

他人に話すには重すぎる話だから

もしかしたら、この先も話すことはないかもしれないけど…

「もうすぐお店が終わるので、そうしたらみんなに紹介しますね」

「はい・・・」

今まであんまり人と関わってこなかったから、他のスタッフの人たちと仲良くなれるか急に不安になった

「大丈夫ですよ
いろんな人がいますけど、みんな優しいですから
あっ、ちょっとお店に出てきます
お店が終わるまでゆっくりしててください」

そんな僕に気を使ってか、優しく声をかけてくれた

オーナーは雰囲気が優しさで包まれているような人で、とても安心する

「はい
ありがとうございます」



オーナーが出ていった部屋に一人残された僕は

なんだか寂しくなってソファーの上のクッションを抱きしめた

「はあ・・・」

物音一つしない部屋で、僕のついた溜め息は宙に浮いて

一人なんだ、という感覚が溢れ出した

今まで考えたくなかった

だからそれも愛のカタチだと思ってきた

…違う、思うようにしてた

でもその少しの期待も裏切られた


僕は生まれてはいけない子

生きていてはいけない子だったんだ

なら生まなければよかったのに

ごめんね母さん、父さん

生まれてきてごめん

泣き虫でごめん

悪い子でごめん……

そんなことを考えていると涙が溢れてきた

何度拭っても止まらなかった

やっと止まった頃には泣き疲れてか、眠くなってきて

オーナーたちが戻って来るのを待ちきれず、眠りに落ちてしまった
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