W.B.T

□Je suis tombe amoureux
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「だーかーらぁ、知ってるって。なに、とーたが俺を忘れてんの? それとも昔のことに拘って、口もきかないって?」

とーた。
その懐かしい響きに目を見張る。そうだ、そんな風に宇佐は俺のこと呼んでた。

「バイトは仕事で友達作りの場じゃない。でも、バイト仲間と仲良くすることは、とーたにとって有益だと思うけどな。例えばシフトの相談とかさ」

「お前はそれでいいのかよ。話しかけんなって言ったの、お前だろ」

犬猿の仲だった俺と仲良くしてもいいのか。
喧嘩をしてから、俺と宇佐は卒業まで必要最低限しか言葉を交わさなかった。何かをするにも全部人を通して話をする――そのぐらい険悪だったのに。

「良くなかったら、とーたに話をしてないと思うんだけど。んーと、昔のことはお互い水に流すってことでどう?」

「むかし、か。……もう6年も昔のことだもんな」

小学生だった俺たちが、今やもう大学生だ。月日の流れをいやでも感じざるを得ない。
何よりどんなに嫌いな相手だろうが、仕事となれば話は別だ。話をしないわけにはいかない。
もしこのまま俺と宇佐がぎくしゃくしていたら、バイト内でも空気が悪くなる。だからこの宇佐の行動は、大人な対応なんだと思った。

「で、とーたの返事は? 俺と仲良くしてくれる?」

「……おう」

宇佐の言う仲良くが一体どこまでを指しているのかわからないけど、バイトの仲間として最低限の付き合いは必要だ。
俺がぶっきらぼうにそう告げると、宇佐は笑顔を浮かべる。その安堵したような表情に、もしかして宇佐なりに緊張していたのかもしれないと思った。それでもこうして俺との距離を縮めようとする宇佐は、俺よりも立派だ。

「とーた?」

少し考え込んでしまった俺に、宇佐が首を傾げる。

「あ、いや。じゃ、俺の連絡先」

ごそごそと持っていたリュックを下して、携帯電話を宇佐の前に掲げる。
俺も少しは大人にならなきゃ。
そんな風に思いながら。
 
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