† 集団エゴイスト †

□第八話 Encounter〜遭遇〜
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《ツナside》



今日は久々に街に出て皆で遊び歩いた。


並盛はそれほど大きな街ではないけれど、一通りの娯楽施設やショッピングモールは揃ってる。



せっかくランボの協力のもと、ほとんどの記憶が戻ったと思ったら、1番重要なところが何者かによって封じられていたことが分かったのは数日前。


確かに大きな進展ではあったが、それと同時にどうしても俺の心には言いようのない憤りと戸惑いが漂っていた。



何故自分ばかりこのような目に遭わなければならないのだろう。


普通の…何の力も持たないただの人間に生まれられたらどれほどよかったことだろうか。



自分らしくないとは分かっていても、ネガティブな思考は収まることなく、寧ろ時と共に拍車がかかっていく。



そんな中、俺の思いを知ってか知らずか、隼人と武が休日の補習をサボり、街に繰り出そうと提案してきた。


普段ならダメツナとしての体裁も考慮し、戸惑いつつも断っていたであろうサボりの誘いも、この時の俺にはちょうどいい気晴らしに思え、頭で考えるより前にこくりと頷いていた。



それから京子ちゃんやハル、チビ達も交えて、賑やかに街へと遊びに来たのだった。



皆で歩きつつも知らぬ間にぼーっとしてしまい、つい意識をどこか他のところに飛ばしてしまう俺をよそに、どうやら話は皆でゲーセンにいくことになったようだ。


自他共に認めるゲーマーの俺の為に、隼人達が気をきかせたのが分かり、苦笑とともにどこかくすぐったいような喜びを俺は感じたのだった。




◇◇◇



チビ達がのどの渇きを訴えてきたので、俺と京子ちゃんはゲーセンに入る前にチビ達の欲求を満たすべく自販機でジュースを購入し、ベンチに腰掛けて少々の休息をとった。


いつもニコニコと穏やかな彼女との会話は、俺の心にも明かりがぽっと燈ったかのように温かい。



だが、ふと心配そうな目になったかと思うと、今の自分の胸中を語りだした。




----心配だった。だが、無事に帰ってきて安心した…と。





黒曜での乱闘で彼女も兄を傷つけられた。

そのショックも止まぬうちに、今度は同じクラスの友達である俺らや、普段姉のように慕っているビアンキが敵のアジトに乗り込んでいってしまったのだ。



京子ちゃんにとっては、酷な話だっただろう。


彼女の兄に対する少々大袈裟なまでの心配性の原因を知ったのは、お兄さんの病室でだった。


自分のせいで他人…特に自分の大切な人…が傷つけられるのは、どれだけ辛いことか。
俺だって今まで何度もその苦汁を味わってきた。

何度体験したって、決して慣れることはない。


いや、回数を増す毎に酷くなる胸の痛みは、治らぬ傷を心に残していく。


目を反らし、見ぬ振りをすることもきっとこの心優しい少女はできないだろう。



(本当に悪いことをしちゃったな…)


京子ちゃんに心の中でそっと謝罪をいれる。
言葉にして謝るべきかもしれない。
けど、京子ちゃんが事情を知らない今は、嘘の理由をつけて謝罪をするより、心の中で本当の気持ちを込めながら伝えた方がよいように思えた。


そんな俺の気持ちを知ってか知らずか…俺は彼女の次の言葉を聞いた瞬間はっとさせられた。





「ツナ君が変わらなくてよかった。」


ほっと肩を下ろしながらそう言葉にする彼女。







---変わらなくてよかった。



-----変わらなくて…





------------本当に?





彼女はそう言うが、俺は少なからず変わってしまったのだろう。


黒曜ヘルシーランドでの出来事は、俺を今いる場所から動かざるをえない状況に追い込んだ。


今までの俺ではいられなくした。



だがそれは単なるきっかけにすぎず、実際には今までのツケが巡りめぐってようやく返ってきたというべきかもしれない。



とにかく、記憶を封じていたのは俺であり、過去を忘れていたのは俺自身の過失だ。



だから変わってしまったのは誰のせいでもない。



原因は---俺だ。






いや、変わることが必ずしも悪いとは言えない。


人間は今をよりよくしようと不変を拒否したことにより、猿から進化し、今では空へも海へも宇宙へも行くことができるまでになったのだ。



だが、変化が必ずしも進化とは言えず、退化する場合だってありえる。






(俺の場合はどっちなのかな……)



進み出したわけではなく、過去を思い出しただけだ。


ならこれはやはり進化とは少し違うと思う。



退化…もしくは懐古とでもいえばいいのか。



いやしかし、昔を懐かしがれるのも、過去の想い出があってこそだろう。


それが多少なりと欠如している俺に、懐古の念というのはやはり違うよう気がするしな…、などと一人思考の淵に陥っていると、突然辺りから異様な気配が感じられた。









(何か…くる…っ)







気配はまだ大分遠い。
恐らくリボーン達でさえまだ気付いてないだろう。




先程から黙って缶ジュースを口にしていた俺は、イーピン達と話し出していた京子ちゃんからふっと視線を反らし、上空を見上げた。




こちらに異様な速さで向かってきている気配が二つ。


とても一般人のものとは思えないその速度と闘気に俺は眉を潜めた。



まだこちらとの距離は開いてるが、どうやらあちらの気配はこっちに一直線に向かってきているようで…。





(敵対マフィアの奴らか…?)



こんな街中で堂々とドンパチを始めるなよな、と心の中で愚痴りつつ、取り敢えず目の前の少女やチビたちを避難させるのが先決だと俺は席を立とうと腰を上げた。





だが……




(え…?この気配の感じ……)



近付いてきたことにより感じ取った二つの気配の質が、何故か俺の心を騒ぎ立て、足がすくんだように俺はしばし固まってしまった。




(何で?…何で俺はこの気配達を知ってると思うの…?)





ドクドクと突然強く脈打つ心臓に、俺はそっと右手を胸にあてる。



「ツナ君?どうかしたの?」


不思議そうにこちらを伺う京子ちゃを達を尻目に、俺は爆音や煙とともなこっちにやってくる二人の人物のほうにばっと身体を向けた。





ようやく休日の街中に相応しくない騒ぎに気付いたらしい住民達が、喧騒のほうを仰ぎ見て悲鳴をあげる。



必死に逃げる者、泣き出す子供、好奇心で期待を顔に浮かべる奴、その場に立ち尽くす人間。


様々な人の思考が絡み合った現場は、もはや大混乱だった。



瓦礫やガラス片などの落下物でここも危ない。

早く避難させなきゃ…。




「京子ちゃん、イーピン、ランボ、早くこっちに!」


自分の本性を出せたのなら、すぐにでも彼女達をこの場から連れ出せるのに、こんな時にも力をセーブし、ダメツナの力量で行動している自分に嫌気がさす。




「ツナ君あれ!!」




はっとしたように俺の頭上を指差す京子ちゃん。




(あぁ、きたな…)




そこには二つの人影がもうもうと巻き上がる煙の中、互いに向き合って立ち構えていた。




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