† 集団エゴイスト †

□番外編伍 霞晴れる夜
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「じゃあ骸もマフィアの人間なんだね。」


それから僕達はベンチに座って、お互いの事をぽつりぽつりと語り合った。

まさかこんな綺麗な子が僕と同じように、マフィアだなんて汚れた世界で生きているだなんて、僕は最初信じられなかった。

綱吉君にそう言ったら、哀しそうな、苦しそうな、けれど表情は笑いながら「そう…」とだけ言われた。


それがただただ僕の心を切なくさせた。

この話題には多分触れないほうがよいのだろう。


子供ながらに、そういった事には敏感だった僕は、直ぐさま話題を変えた。


「綱吉君は何故このような夜中に公園に来たのですか?」


いくらこの街は治安がいいと言っても、こんな子供が一人で夜歩きするほど世の中は平和ではない。


「なんだか急に夜桜が見たくなってね…」

「夜桜…ですか?」

「うん、この辺りで桜が咲いてるのはここだけだから…」


どうやら、綱吉君が登っていた木は桜と言うらしい。

なんでも、日本好きな綱吉君のところのファミリーのボスが、わざわざ日本から取り寄せ、街に寄附したんだとか。



「綺麗な木ですね。僕は初めて見ました。」

「そうでしょ?けど、桜は直ぐに散っちゃうんだ。」

「こんなに沢山花が咲いてるのにですか?儚いですね。」


「うん、けど人はその儚さを好いて、この木を愛おしむんだ。」

「儚さが…愛おしんですか…?」

「そう、人間だって儚い生き物なのにね。きっと人は桜に共感を得てるんだ。だから桜をこれみよがしに褒める。まあそれを分かってて桜を愛でてるのは一体どれだけの人か分からないけどね。」


浮かべる笑みは、およそ幼児のものとは程遠く、しかし夜の闇と月明かりに照らされたそれは、聖なるものを思わせるほど清らかだった。




ふと、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。


おそらく公園の近くの民家からだろう。


せっかく綱吉君との静かな時を楽しんでいたのに…。

その声によって一気に雰囲気を壊された気がして、僕の心に苛立ちが募る。



「すごい泣き声ですね…。」

「きっと夜泣きだろうね。今頃母親が必死に宥めてる…。」


そういう綱吉君の表情はほのかに愛おしさが滲み出てる。


それを見て、ますます僕は苛立つ。


「ふん、赤ん坊だなんて泣くという醜く愚かな行為しかとれない、どうしようもない者です…。」


僕が嫌悪感もあらわに悪態をつく。


「骸は……赤ん坊が嫌い…?」

「そうじゃありません。泣き喚くという無力で愚かな行為が嫌いなんです。」


「けど、赤ん坊はまだ言葉を持たないからね。泣いて自分の意思を伝えるしか方法がないんだよ。それに、赤ん坊は生まれた時産声を上げなきゃ死んじゃうよ?」



そっと僕に語りかけるように綱吉君は話す。





「綱吉君はなんで人は生まれてくる時、産声を上げると思いますか?」


「えっ…?」


「僕は、赤ん坊はきっと、自分のこれからの辛く悲しい人生に悲観して泣くんだと思います。なんでこんな暗く醜い世の中に自分を産んだのだと、母親を憎み、世界を憎み、そして自分を憎みながら盛大に泣きわめいてるんです。」


こんな考え、狂っていると思われるだろうか?

人間は生まれた瞬間に、既にこの世界に幻滅してる。

こんな考え、普通の子供は思わないだろう。

だが、僕は確信を持ってそう言える。

だって、僕の能力で見た六道のうち、この人間道は僕の中で1番醜い世界なのだから。

醜いが故に失望し、僕は今だ六道のうちのこの道だけ最後まで通り抜けられないでいた。



しかし、少し待っても何も言わない綱吉君に不安になり、僕は伏せていた顔を上げて綱吉君を見遣る。


「ぇっ………?!」





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