† 集団エゴイスト †

□第四話 Absorption〜吸収〜
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「…沢田。」

そんな俺に、了平さんは訝し気な表情をして、こちらを覗いてくる。

駄目だ、ダメツナはこんな事を言うキャラじゃない。
早く何か言ってごまかさないと、と俺が次の言葉を言うより先に、了平さんが口をついた。

「…お前にもいただろ?」

「え…?」

どういう意味だ?
俺にもいた…?俺にも兄がいるという意味かな…?

「えっと、俺は一人っ子だから、兄とかいませんよ…?」


しかし、違う意味らしく、了平さんは静かに首を横に振る。


「お前にだって、昔から傍らでお前の事を思い守ってくれる奴らがいただろ…?」


「・・・・え・・?」

相手の真剣な眼差しが伺うようにこちらを見る。

昔から…俺の傍らで…?

どういう意味…?

俺の昔を了平さんは知っているの…?

それともこれはただの一般的にはって事?


分からない…頭に置かれた手はひやりと気持ちいのに、心の中では火がまだ燻っているかのように僅かな熱が上がる。

「いや、何でもない。特に深い意味はないからそう考え込むな!」


そんな俺の様子を知ってか知らずか、了平さんはさっきまでの雰囲気をすぐに変え、にかっと明るい笑顔でそう言ってきた。

やはりこの人も妹と同じでどこか心の変化に聡い。

普段は鈍そうなのに、人の心の踏み込んではいけない領域をきちんと理解している。
人の心に土足で上がるような事はしない良識と優しさをきちんと備えているようだ。




「了平さんと京子ちゃんって、やっぱ似てますね。」



「そうか?周りには全然似ていないと言われるぞ?」


俺の発言にちょっと驚いた表情で答える了平さん。


「見た目とかそんなんじゃなくて…なんかもっと根本的なところ、中身がそっくりなんですよ。」


だから周りはあまり気付かないんだろうけど。


そう言うと、了平さんは一瞬息を飲むようにしたと思ったらすぐに照れたような笑みを浮かべた。


「そうか。俺と京子が似ているか…。」


そのまま黙りこんでしまった相手に、もしかして何か悪い事を言ってしまったかと懸念したが、雰囲気からして特に怒っているわけでもなさそうなので、そのまま俺も黙り込む。


あーそれにしても・・・


(この手、本当に気持ちいいんだけど・・・)

まるで身体の中の熱が吸収されてるみたいだ。

先程まで感じてた熱や怠さが嘘のように退いていく。

普通いくら手が冷たいからって、熱い人肌に触れていたら数分の後に手も温まってしまうはずなのに、了平さんの手は今も相変わらず冷たくて気持ちいいままだ。



「沢田、そろそろ大丈夫か?」


「あ、はい。ありがとうございました。」


見計らったかのようなナイスタイミングであちらから再開を申し出てきたし。


本当に不思議な人だと思った。


温かいのに冷たい手。

いつも一緒にいる二人やクラスメイトの京子ちゃんとは違って今日初めて会ったにも関わらず、俺の熱にもすぐに気付くし…


「沢田、もし兄が欲しいのなら、俺の事をそう思ってもいいからな!」


唐突に言われた相手の台詞に驚く。


「え…?」


「どうやら俺はお前が言ってた通り、根っからの兄貴肌のようだしな。今更弟が一人増えたところでそう変わらん。だから、俺を兄と思っていつでも頼っていいぞ。」


ふと思い出したのは、つい数十分前に交わした京子ちゃんとの言葉。


『---だからちょっと兄弟とかって憧れるな。』


俺は確かにそう言った。


(これは偶然…?)


なにかこの兄妹はテレパシーでも通ってるのか…


だが、やっぱり似た者兄妹なのだろう。

そう思うと、俺の顔は自然と笑みが浮かんできた。


「どうかしたか?」

「いえ、なんか…くすぐったい気分だなって思って…」

まさかダメツナの自分にそんなことを提案してくる輩がいたとは。


今日は不思議な驚きがいっぱいだ。



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