† 集団エゴイスト †
□第四話 Absorption〜吸収〜
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◇◇◇
「そんじゃ、後はオメーらで適当にやっとけ。」
無責任な師匠は完全に観戦に徹するつもりらしく、ベンチの上を立つ気も無いらしい。
一応ボクシング初心者な俺に、流石にいきなり試合という訳では無いらしく、今サンドバックで打ち込み練習なんかをしてたりする。
とりあえず、この状況をどうしようか…?
昨日の熱もまだ完全にひいた訳ではないので、出来れば今日はさっさと帰って寝たい。
けど、リボーンが勝手に頼んだとは言え、自分の練習についてくれてる先輩をほったらかしにして自分だけ帰るのは気がひけるし…
うーん、どうしよう?
「…沢田、ちょっといいか?」
困った表情でいた俺に、隣で俺の練習を指導していた先輩から手が差し延べられた。
フォームの注意か何かかと思ったら、その手は俺の顔の方に延びてきて…
「やはり、お前ちょっと熱がないか?」
ぴたりとおでこに当てられたその手は意外にひんやりと冷たく、熱でほてったおでこが気持ちいい。
「あ、あの、けど!別に俺風邪とかじゃないから大丈夫です!!身体も全然だるくないし!きっと運動したから熱くなっただけだと思います。」
何故か必死に言い訳する俺。
このまま風邪気味って事にすればきっと練習も中止になって望み通り早く帰れるのに…
「そうか?なら少し休憩するか。」
「あ、はい…」
咄嗟の事とは言え、自分の意外な行動にちょっとびっくりしてしまった。
(…けど、なんかこの人には嘘をつきたくないんだよね……)
ダメツナの皮を被ってる時点で既にアウトだが、それでも出来る限りこの人には正直な自分でいたいと思ってしまう。
きっと、朝のようにこの人から感じる温かい何かをまだ近くで感じていたいからかもしれない…。
「沢田、ちょっと横になっとけ。」
「あ、はい。じゃあ…」
抵抗するのもなんかおかしいかなって思い、俺は了平さんの促すままとりあえずベンチに寝転がった。(ちなみにリボーンとは別のベンチだ。あいつは自分のベンチで昼寝をしている。)
「あいにく今氷を切らしててな。悪いがこれで我慢してくれ。」
「え、了平さん…?」
何故かそういって額に当てられたのはまたも了平さんの手だった。
「俺の手は冷えてるから、まあ氷代わりくらいにはなるだろ?」
そう言われれば確かにそうだけど…
今日会ったばかりの人、しかも先輩にこんな事をしてもらうだなんてちょっと気がひけてしまう。
「妹が熱を出した時も、よくこうしてやるんだ。」
「へぇー、確かにこれ気持ちいいですもんね。」
あったかい雰囲気に反して冷たいその手はなんとも心地よい。
とここで、俺は一つの考えが頭を過ぎった。
「あのー、もしかして了平さんって、苗字笹川だったりします…?」
「ああ、そうだぞ。言ってなかったか?」
悪い悪いと謝る相手に、俺はつい納得してしまう。
笹川…了平
「そんで俺と同じクラスに妹がいたりします?」
「ああ。たしか京子も沢田もA組だったな。」
やっぱり…何かこの人と同じ空気をどこかで感じたことがあると思ったんだよな。
この人と京子ちゃんは、流石兄妹というだけあって、どこか雰囲気が似ている。
温かい雰囲気や人の機微に聡いとこ、ちょっと天然なとことか。
「けど、確かに了平さんって頼りなるお兄さんって感じですもんね。守ってくれそうというか。」
「おう、そうか?まあ兄として妹を守るのは当然のことだろ。」
本当に、根っからの兄貴タイプだな。
「京子は昔身体が弱かったからな。今はもう全然大丈夫なんだが、ついつい俺が守ってやらなきゃと思ってしまってな…」
と苦笑する了平さん。
へぇ…京子ちゃんって身体弱かったんだ。
いつも明るく元気なイメージしかなかったので、ちょっと驚いてしまう。
「京子ちゃんは幸せですね。こんなにも自分を思って守ってくれる相手が昔からついてくれてたんですから。」
つい、ダメツナではなく本心でそう言ってしまう。
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