† 集団エゴイスト †

□第八話 Encounter〜遭遇〜
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あいつがジャッポーネに渡ってどれくらいの月日がたったのだろうか




初めて会ったときから、あいつの傍に控え、守り、慈しんでいくのはずっと俺たちの役目だと思っていた。


守護者という存在がいることも知っていたし、その稀有な関係性も理解している。


それでも、俺たちは別格であり、あいつにとってなくてはならない存在だと思っていた。


いや、今でさえ俺は思っている。




少なくとも、ボスはあいつにとっての『絶対の特別』であることは間違いないのだ。


あいつのことを本当に理解できるのは、同じ血がながれ、同じ力を有するボスだけだ。

だからこそ、幼いときのあいつは力に対する孤立感、劣等感で精神が追い込まれることにはならなかった。





ボスにとってのあいつ
あいつにとってのボス







どちらもお互いが必要で、隣にいるべき存在だったんだ。




それなのに、ボスは身勝手な大人の策略に翻弄され、いわれのない責任を感じ、あいつの傍に立つことを自ら拒絶してしまった。






俺達子供は誰も悪くなかった。完全に被害者だったのだ。
それなのに、無責任な大人たちに運命を翻弄され、心に一生ものの傷を負い、取り返しのつかない過ちの記憶を延々と悔いる時間を押しつけられた。





もうあの幸せだったころに戻れないというのならばせめて・・・



せめてボスとあいつが笑いあえる“今”にしてやりたい。


昔のように穏やかな時間をこいつらだって過ごしていいはずなんだ。





あいつの記憶が回復しつつある今は、まさにそのチャンスだろう。


あいつらを知る俺にだからこそできることがある。



互いに不器用なあいつらも、そろそろ報われるべきなんだ・・・




そのためならば、俺は何でもやってみせる。



例えそれがあいつを困惑させ、ボスの命令に背くことになろうと、俺は俺の意志を貫く。





だから、早く気づいてやってくれ・・・



・・・早く


・・・・・・・早く





*******




イタリアにあるボンゴレファミリーのアジトは、いくつかの館が合わさって出来ていた。

アジトの中枢を担うボスのいる館は中央の巨大な建物の中に存在する。


ボンゴレの門外顧問がいる館は、本館から少々距離を置いた離れにあった。

独自の立場を守る門外顧問チームは、ボンゴレをつかず離れずしながら見守り、時にはその道が逸れないよう厳しく戒める。


それ故、彼らの行動はボンゴレサイドからはあまり気付かれることなく、いつもひっそりと活動しているイメージを持たれていた。


門外顧問チームのトップであり、またボンゴレのNo.2という肩書を併せ持つ沢田家光は、そんな離れの館の、さらに人目につきにくい裏庭の中にいた。

厳しい表情で、傍らに控える少年に何かを手渡し、家光はその少年の肩に手を置く。


「いいかバジル、くれぐれも頼んだぞ。」

「はい!」


家光からバジルと呼ばれた少年は、風にそよぐ茶色の髪をさっとたなびかせたと同時に、素早く走りだしその場を離れた。


家光はそんなバジルの向かった方向に、物悲しさと悲痛な色を含んだ視線を、いつまでも向けていたのだった。




そんな家光達の僅かな時間のやりとりを、ひそかに眺めている者がいた。





「う゛ぉい、本当にこれでいいのかよ。」



ボンゴレのアジトの最北端に位置する塔の最上階の部屋は、ボンゴレの特殊暗殺部隊ウ゛ァリアーに与えられた場所だった。

そこの窓からは、門外顧問の館の裏庭が多少遠目ながらもよく見え、先程の家光達のやりとりも、こちらには丸分かりだったりする。




北の塔の部屋には今、二人の人物がいた。



「家光の遣いが行っちまったぞぉ。」

「構わん。」


黒い革張りの椅子に腰掛け、鋭い視線を光らせているのは、ウ゛ァリアーのボスで、9代目の長子であるザンザス。

そして、ザンザスの傍に控えいる銀色長髪の青年が、最年少で剣帝になり、今ではザンザスの実質的な補佐であるスクアーロだ。



暗殺部隊という名に相応しく、二人の纏う空気は重く冷たく、そして鋭いものだった。



「…おまえは奴を追え。」


ザンザスはしばし思案した後で、スクアーロに命じた。


「リングを取り返してくるのかぁ?」


「いや、どうせあれはフェイクだ。だが、よりリアルな状況に近づけるために一芝居くらいうってもいいだろ。」



「ふん、この策士が。じやあちょっともんできてやるかぁ。」


「せいぜい派手にやりやがれ。」



興味なさそうに部下にそう言い放つザンザスは、懐のポケットから一枚の小さな紙を取り出した。


それは一枚の古い写真だった。


写真自体はだいぶくたびれていたが、持ち主が今まで大事にしてきたのだろう、写真には目立った汚れや皺などが見当たらない。




「うおい、本物のリングはどうしたんだ?」


「すでに確実にツナヨシの元に届く輸送経路で送った。」


そう言って、写真の一点を見遣ったザンザスに、スクアーロもその意味を理解し、にやりと笑った。


「あぁ…なるほどなぁ。そりゃ、確かに確実だ。」



写真には四人の人物が写っていた。

過去の彼らの姿であろう少年二人と、彼らより一際幼い薄茶色の髪の日本人。
そして、先程ザンザスが視線を向けていた人物…微笑に近い表情の彼らの中、唯一満面の笑みをカメラに向けているザンザス達と同年代の金色の髪の少年だった。




「とにかく、リングはこちらとあいつらの両方にあってこそ意味を成す。くれぐれもヘマすんじゃねーぞ。」


「了解だぜぇボス。」


ザンザスからの珍しい叱咤激励に、少々驚きながらもスクアーロは自分の心が急いているのを感じた。


久々に会える幼子。


その成長した姿をこの目にできる喜びは、例えどんな状況だったとしても、やはり変わりはしないのだな、とスクアーロは改めて感じたのだった。





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