小説2

□狙われた猿
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いつからだったか始まった、三鶴とハジメの猿門争奪戦。

場所を選ばず行われるそれは、猿門を除いた主任看守勢にとって日常的な光景となっていた。



「俺ちゃんとデートしない?」
その声で囁かれたら妊娠するとまで噂されている低音エロボを惜しげも無く使い 猿門を口説いているのは、南波一喧しい放送局部長 一声三鶴である。
逃げられないように行く手を阻んでいるのはさすがといった感じだ。

「はあっ?なんで俺がお前とデートすんだよ?他当たれ」
そんな孕ませボイスを物ともせず 適当に返す猿門は、全くと言っていい程三鶴の気持ちには気付いていない。


「は?猿は俺と手合わせすんだよ。なぁ?」

そこに現れたのは泣く子も黙る十三舎主任看守部長、双六ハジメだ。
こちらもいきなり出て来たわりには強引に話を進めている。

「なに勝手決めてんの?お猿ちゃんは俺ちゃんとデートするんだよね?」
三鶴はそう言って猿門の頬に触れた。
その途端、ハジメの米神にピキピキと血管が浮き上がる。もの凄い殺気だ。


「す、双六!?」
近くで事の成り行きを見ていた優等生。四舎主任看守部長の四桜犬士郎が慌てて止めに入る。

「なに…俺ちゃんと殺る気?」
怪しげな笑みでハジメを挑発する三鶴。

こうなっては埒が明かない。


「猿門!二人とデートしなさい!」
猿門にそう言うのは三舎主任看守部長。皆のオカン、三葉キジである。

「はぁ?なんで俺がそんなこと…
「アンタが犠牲になれば事は全て治まるのよ」
猿門の言葉を遮りキジは三鶴とハジメに向き直る。

「三人でデートすれば良いじゃない。ねぇ?」
キジの言葉に頷くのは、そこにいた看守達。

「そ、そうだな。最後に猿門がどちらかを選べばいい」
犬士郎の言葉に三鶴とハジメは睨み合った後 、猿門を振り返る。

「……わかった」
「いいよ」
その瞬間、二人の間にバチバチと火花が飛んだ気がした。

「なに勝手にっ
「それじゃあ行こっか、お猿ちゃん」
猿門の拒絶はあっさりと無視される。

そうして、猿門の両側をガッチリと挟むと 三鶴とハジメは休憩所を出て行った。


漸く南波にいつもの平和が戻った。
ただ一人、猿門という犠牲を残し…。


「お前ら後で覚えてろよっ」

そんな猿門の叫びは誰にも届くことはなかった。
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