小説2

□チョコレートより甘い
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「よっ、折角のバレンタインに彼女もいないムサシ君に俺様がわざわざチョコレートを持ってきてやったぜ」
と、なんの連絡もなしにやってきた一角。

外は結構寒かったのか、いつだったか五死郎とふたりで選んでやったモコモコなマフラーをしていても、鼻の頭が赤くなっていた。

「…お前ひとりか?」
「あ?ああ、こじろーならなんか用事あるとか行って出ていった!」
そう言ってそっぽを向くその様は明らかに拗ねているソレで…。

恋人であるはずの五死郎が、バレンタイン当日に自分の隣にいないことが気に食わないんだろうことがありありと分かった。

「で、俺のとこに来たって?」
「おう」
ふんぞり返ってそう答える一角は相変わらず偉そうである。


そうやっていつまでも玄関でいても仕方がないので「まあいいか」と一角を部屋の中へ招き入れる。


そのまま我が物顔でソファーに座り、マフラーや上着を子どもの様にその辺に脱ぎ散らかすのもいつものことだ。
それをいちいち拾いハンガーにかけてやるのもいつも通り。
甲斐甲斐しく世話をしてやる俺もどうかと思うが、コイツはどこのお姫様なんだろう?


「なんか飲む?」

「酒」

「却下」

そう答えることも分かっていたが、真っ昼間からこのワガママな俺様の望み通り酒を与えるのは頂けない。
そんなわけで適当に甘めに入れたホットココアを差し出した。


「……さけ」

「また夜にな」

「……あめぇ」

「甘いの好きだろ?」

「うん、好き」


素直な一角はまあまあ可愛い。

例え五死郎と付き合っていたとしても、俺に甘えてくるのは変わらないし、なんならいつも五死郎が嫉妬する程度には必要以上にベタベタとくっついてくる。というか五死郎公認のセフレな関係でもある。

今も隣に座っている俺の肩に甘えるように擦り寄ってきている。

「あ!」
「…なに?」
その至近距離で、いきなりでかい声を出す一角。

「だからチョコやりにきたんだって!」

「ああ、うん」
そう言えばそんなことを言っていた。

でも、

「俺チョコ嫌いなんだけど」

「知ってる」
これもまたあっさりと答える。

「あれだろ?触ると溶けるから嫌なんだろ?」

「ああ」

「だったら俺の手から食えばいいじゃん」
ナイスアイデアだろ。と、にぱっと笑みを浮かべる一角。
全然ナイスアイデアではないんだが、俺が拒否するなんてどうせ思っていないんだろう。

俺の返事は聞かず、自身の鞄と一緒に持ってきた紙袋からなにかを(まあどうせチョコなんだろうが)ガサゴソ取り出している。


「ほら、あーん」

お前は俺の彼女か!と、突っ込みたくなるような行動に呆れながらも、ニヤニヤと人を小馬鹿にしたような笑みに少しばかり苛立ち、その意趣返しにチョコ(鮫型だった)をつまんだ指に思いっきり噛み付いてやる。

「いってっ!?」
痛みに顔を顰め、慌てて俺の口から指を離した一角。

口内に広がるチョコの甘みと、鉄臭い血の味になんとも言えない高揚感を覚える。

「なにしやがるっ!」
俺の歯型がくっきりと残る血の滲んだ指を反対側の手で擦り、キッとこちらを睨みつけてくる。


「たまには優しくしてやろうか?」

「は?」

「バレンタインに彼氏にフラれた可哀想な一角ちゃんを慰めてやるって言ってんの」

「別にふられてねーし!」

「はいはい、いいからおいで?」
そう言って腕を広げると、不服そうにしながらも俺の腕の中におさまりに来る。


「夕方まで出かけるって言ってた」

「もう夕方だな」

「帰ったら俺がいなくて焦ればいいんだ」
ポツポツと不満を漏らし、ギューギュー抱きついてくる一角は五死郎への仕返しの為に俺のとこに来たみたいだ。

「すぐここにいるって気付きそうだけど」

「……ムサシ」

「なに?」

「キスしろ」
そう対して身長も変わらない癖に、上目遣いでそう強請るのは完全にワザとだと思うのに…


「……はぁ」

普段の傲慢でワガママな態度と同じなのに、そこに加わる妖艶な色香。
魔性というのは、コイツみたいな奴の事をいうんだろうな。


ちゅうっ

掠めるように唇を塞ぎ、離れようとした。

「んっ…んんっ…」
だがしかし、いつの間にか首の後ろにまわされた腕に引き寄せられ、口付けを深くされてしまう。

ぬるりと口内に舌が入り込み、いともあっさり舌を絡められる。
強引なだけであまり上手いと言えない稚拙なキス。

応えるように舌を絡め吸い上げてやると、ビクビクと腰を震わせ、簡単に腕の中へ堕ちてくる。

何度も舌を絡め吸い上げ甘噛みをしながら、今度は一角の口内へと移動する。

顎を掴み上を向かせ、口内に溜まったどちらのものか分からない唾液を一角へと送り込むと、抵抗を示すように胸を押し返してきた。

それを許さず執拗に口内を荒らすと息苦しさも相俟ってか、コクリと喉を鳴らし二人分の唾液を飲みこんだようだ。


「はっ…ゲホッ…おま、ハァッ…しつけーんだよっ」

「キスしろって言ったのはお前だろ。舌入れてきたのも一角からだし」

そう言ってやると、言い返せないのか押し黙る一角。

「そんなに気持ちよかった?」
視線だけで一角の兆し始めたナニを指すと、ビックリしたようにソレを見つめた後…

「……そうだよ。だから責任取れよな」
と、いつもの顔でニヤリと笑った。



ピンポーン

一角からの誘いに応えようと下肢に触れたその時、場を壊すような軽快なインターホンの音が鳴り響いた。

「来たみたいだな」

「いいから続き、鍵空いてるし…」

「ああ…そういうことな」
どうやら恋人に浮気現場を見せたいらしい。

面白そうなので、その提案にのる俺。


ピンポンピンポンピンポーン

しつこくインターホンが鳴らされた後、ガチャガチャとドアノブを捻る音がする。

その音を聞きながら、一角の緩いズボンの前を開け、勃ちあがったソレを下着越しに擦る。

「んっ…」

勢いよくドアの開く音と、近づいてくる足音…

バンッ

そのまま俺達がいるリビングのドアが開かれた。


「なにやってんの!?」

ドアの前に立つ五死郎は、恋人と友人の浮気現場に遭遇した彼氏。まさにその通りだった。

「なにって、ナニ?」
珍しく怒気を孕む五死郎の声に、さっきまでの勢いはどこに行ったのか、ちょっとビビっている一角を置いて今の状態を告げる。

「なんで!?」

「なんでだと思う?」

自分から言い出したわりにはヤバいと思ったのか、持ち主の感情を表すかの様にみるみる萎えてしまった一角のモノを撫でながら、五死郎を挑発する。

「俺は一角に聞いてんだけど」

「…っ」
冷たい声に、ビクリと腕の中の一角の身体が揺れる。

「…ここは素直に言った方がいいと思うけど?」
助け舟を出すようにそう言ってやると、一角は恐る恐る顔を上げ、未だにドアの前で立つ五死郎を見やる。


「だって今日…」

視線で先を促す五死郎。

「バレンタインなのに起きたらいねーし…、帰るの夕方って置き手紙あるし、俺、お前にチョコやろうと思ってたのに…」
五死郎の顔は見れないのか、俯いたままポツポツと不満を漏らしていく一角。

「…夕方には帰るって言ったじゃん」

「俺は1日一緒にいたかったんだよ!ムカついたからムサシとこ遊びにきたし、チョコもやったからお前の分はない!」

「なんで俺の分ないの!?」

「ムカついたから」
さっきまでビビってた一角は、いつの間に持ち直したのか相変わらず面倒臭いヒス持ちな彼女ぶりを発揮している。

「だからって浮気はダメだろ!」

「ムサシとやんのは浮気に入んねーし!」

「なにその自分理論!?」

「俺はムサシともセックスしたい!」

「開き直り!?」
いっそ清々しいまでの持論を持ち出し、五死郎を言い負かそうとする姿は流石というかなんと言うか…

まあ俺も否定はしないが。


元々は後腐れのないセフレな三角関係から始まったこの関係。

五死郎にちゃんと告白され付き合い始めたと言っても、俺も手離したくないんだろう一角は、わりとこうして無理を通そうとする。

現に今も五死郎の方が押され気味だ。

「ムサシとそのまま(セフレ)で良いから付き合おうって言ったのお前だろ」

「そうだけどさぁ…」

「恋人だから一緒に住んでるし、毎日セックスするし、お前が好きなたまご料理も作ってやるし、今日のはお前が悪いし俺は悪くない」
俺との浮気?(じゃないらしい)も正当化する一角。


「あーもう分かったよ!でも一角の手作りチョコはほしい!」
等々折れる五死郎。でもそこは譲れないらしい。

「じゃあ後で作ってやるよ」

「ホント!?」

「おう。だから久しぶりに3人でやろーぜ」


「……分かりました」

「結局やるんだ?」

「だって一角がしたいって言うし」

「まあワガママなお姫様だしな」

「ほんとソレ…」

諦めたようにため息を吐きながらも、一角と俺の隣に躙り寄る五死郎。

「そういや別にお前らが俺にチョコくれても良くね?」

五死郎からのキスを額や頬に受けながら妙案を持ち出してくる一角に、
「その話はとりあえずヤってからな」
と、楽し気に笑う唇を塞いでやった。

そこから先はチョコレートより甘い睦み合い。

END



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