小説2
□バレンタインは甘いキスで
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なんでか分からんが、見た目だけ子どもの姿になってしまった猿門の面倒を見始めて早数週間。
最初は5歳くらいだった見た目も少しずつ成長し、今は大体14くらいだろうか?
オレンジと薄緑のグラデーションがかかった珍しい毛色の髪をひとつに結わえたそのおさげ髪は、ちょうど出会った頃を思い出させる。
その頃よりは少しばかり幼い容姿と、くるくる変わる表情…それはもう可愛いとしか言いようがない。
そんな可愛い恋人はキッチンでなにやら慌ただしく制作中である。
今日の日付とリビングまで漂うこの甘い香りから察するに、恐らくバレンタイン用のチョコレートなんだろう。
それにしても俺が近付こうとすると「こっちくんな!絶対見たらダメだからな!」と、威嚇してくるのがまた可愛らしい。
ガチャガチャというなんとも言えない音や、チンッと鳴るレンジの音。
料理があまり得意ではない猿門のことを考えると、キッチンの惨状が恐ろしいのだが今は考えないことにした…。
そんなことを考えてる間にも「ブランデーは…このくらいか?」「は?…マヨネーズ?」などなど不穏な言葉が聞こえてくる。
「……マヨネーズ」
チョコレートとマヨネーズ、一体全体なにを作っているのか。最早不安しか生まれない。
それから暫くはなにかと格闘するような音や声が続いていたが、ようやく片付いたのかご機嫌な様子の猿門がリビングへ戻ってきた。
「終わったのか?」
「おう!ほら見ろ!」
自信満々と言った顔で見せつけてくるのは、歪に丸められたチョコレート。
大皿に乗せられたソレは恐らく…。
「…トリュフ、か?」
「正解w」
よかった、当たってた。
ここで間違えてたら機嫌を損ねちまうとこだった。
「にしても多いな」
そう、多い。絶対30個以上ある。
「いっぱいあった方がいいだろ?」
きょとん顔でそう言ってのける猿門に「ああ…」とか「そうか」とか適当な返事を返し、小さな体を己の方へ引き寄せる。
されるがままに膝の上に落ちてきた猿門は、少しテレながらも大人しく向かい合わせな格好で腕の中におさまった。
小さくなってからと言うもの、こうして膝に乗せたり抱き上げたりする機会が多くなり、猿門の方も以前に比べ抵抗感がなくなってきたのだろう。
そのおかげで俺は、幼さの残る柔らかい頬にキスをしたり、まだ発展途上な柔い尻に手をまわしその感触を楽しんだりと、好き放題出来るわけだ。
「はじめ?」
軽くトリップしていた俺の頬を小さな手で包み、意識をそちらへ向かせようとする猿門。その声に我に返る俺。
「なんだ?」
「あーん」
可愛い掛け声と共にトリュフをひと粒掴み、俺の口元に持ってくる。
そんな可愛いお誘いを断るはずもなく、請われるままに口を開けた。
すかさず口に突っ込まれたソレは、ほんのりとしたチョコの甘みと、アルコールの苦味…後はなにを入れたのか分からないが、それらが合わさってなんとも微妙な奇跡を起こしている。
「うまいか?」
黙ったまま咀嚼している己にキラキラした大きな瞳で問いかけてくるものだから、つい「ああ、うまいな」なんて答えてしまう。
不味くはない。うん。
「へへw…なあ、もいっこ食べる?」
嬉しそうに、テレながら聞かれてしまえばもう頷くしか選択肢はない。
そんなこんなで幾つも続けて食べさせられた俺はというと、はっきり言って胸焼けがやばい。
なので、少し趣向を変えてみることにした。
再び口に入れられたチョコを噛み砕くことはせず、猿門の頭を引き寄せると楽しそうに弧を描く唇を己のソレで塞ぐ。
ぺろりと唇を舐め開くよう促すと、恐る恐ると言った感じで小さく開き迎えてくれようとする可愛い舌先。
その小さな舌に先程のチョコを乗せ、むしゃぶりつくように口付けを深くする。
「んっ…ふぅぅ…はっ……んぅ…」
口内の熱でどろどろに溶けていくチョコを、顎を掴み上向かせることで強引に全て飲み込ませる。
甘ったるいチョコの味がしなくなるまでキスを堪能した後、くったりと力の抜けた猿門の身体を離してやると、とろとろに溶けた瞳と視線がかち合った。
「…はじめぇ、もっとちゅう♡」
語尾にハートを付けキスをねだってくる猿門の瞳は涙で潤んでいて…とても14には見えない色香を醸し出している。
なんだこの魔性の猿は…?
さっきまでは只の甘えん坊で見た目通りの…
そこまで考えて、ふとテーブルの上に置かれたトリュフが目に入った。
そういやブランデー…入れてたな。
まさか、たったひと粒のチョコで酔ったのだろうか?
ありえないことではない。
「猿…」
「んぅ?」
「もうひとつ、食うか?」
そう言ってチョコをぽってりとした小さな唇に宛てがう。
「くう♡」
パクッと、俺の指ごとチョコを咥える。
器用に指を噛まないよう口内のチョコを咀嚼して飲み込み、ぺろぺろと指に付いた残骸まで舐めとる猿門に…。
ぷつり、と俺の中のなにかが切れたのを感じた。
「ったく、覚悟出来てんだろうな。このエロ猿が…」
END