*物語*
□花盛り
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廊下に出ると、ちょうど郁人さんが部屋から出てきたところだった。
「郁人さん!」
郁人さんを見かけて、嬉しくてつい声をかけてしまう。
何も用はないのに…。
郁人さんはどこかに用があって部屋から出てきたのに声かけちゃって迷惑かも…。
そんなことを思っていると、郁人さんがこちらに歩いてきていつもの素敵な笑顔で私に聞く。
「どうかされましたか?しのさん」
「えっと…郁人さんの姿が見えて、つい嬉しくて声かけちゃって。何も用はないんです…スミマセン」
素直に謝った。相手の事を考えずに声かけちゃうなんて…。
ちょっとシュンとした私に郁人さんは優しく微笑みながら、
「謝らなくても良いのですよ。しのさんが声をかけてくださるなんて。私には悦び以外の何でもありませんよ」
郁人さんは私の恋人だけど、こんなに素敵な郁人さんが私を好きでいてくれるなんて、いつでも夢なんじゃないかと思ってしまう。
恥ずかしさと嬉しさで顔が熱くなる。
そんなことを言われても、私にはなんと答えていいのか解らなくて。
一度は冷めた体の熱が、再び戻る。
両手でほっぺたを押さえてうつむいていると、
「しのさん、シャンプーかトリートメントか変えられましたか?」
そう言って郁人さんが乾いたばかりの髪を手ぐしでとく。
(わわっ…)
熱くなった体がさらに熱さを増して、心臓がうるさいくらいに鳴る。
耳のなかに心臓があるのかと思うほど、大きく聞こえる。
「しのさん、この香りは私が差し上げた香水と同じ香りですか?」
郁人さんが香りに気づいて、こちらを見て微笑んでいた。
「あの、…とってもいい香りだったから…。香水は学校にはつけていけないし…」
もう何を言っていいのか…。
しどろもどろになってしまった。
「可愛らしい花からとてもいい香りがすると、周りの蜜蜂や蝶がたくさん寄って来てしまいますね…。可愛らしいだけでも心配なのに」
「…え?」
郁人さんが言っていることがよくわからないでいると、
「あなたがあんまり可愛いんで心配なんです」
郁人さんの言葉が終らないうちに、体がふわっと浮き上がる。
「あ、あの、郁人さん…。誰かに見られたら…
」
私は郁人さんに軽々と抱きかかえられてしまっていた。
…お姫様抱っこで……。
「恥ずかしいですか?」
「…はい」
「私は見せつけたいですけどね」
もう郁人さんの顔も見ることができなくて…。
うつむいていると、郁人さんはそのまま歩き出し、私を抱えながら自室のドアを開け中に入っていく。
私はゆっくりベッドに下ろされ、郁人さんを見上げる格好になる。
「あなたは私だけのものなんですから、誰にでもわかるように印をつけておきましょう…」
郁人さんの動作や言葉に頭がボーッとして、何にも考えられなくなっていく。
郁人さんの綺麗な手が首に回って、綺麗な顔が耳元に近づき、私の大好きな声がすぐ近くで聞こえる。
「こんなに可愛い花の蜜は誰かにとられる前に私が全部食べてしまいましょう…」
終わり(/▽\)♪
→あとがき