*物語*

□花盛り
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「あ〜気持ちよかったぁ」


しのは濡れた髪をタオルで拭くと、誰に言うわけでもなく呟く。

今日は高校も休みで、放課後は友達と
買い物を楽しんだ。
しのは今とても気分がよかった。
友達と楽しい時間を過ごしたり、入浴が気持ちよかっただけではない。

以前から気になっていた、輸入物を扱う店でトリートメントを購入し、先ほど早速使ってみたのだ。
新しいものは早く使ってみたいしの。しかし、一緒に買ったハンドクリームのようにトリートメントはいつでも試せるものではないので、ずっと楽しみにしていたのだ。


(やっぱり、いい香り…)



ドライヤーで髪を乾かすと、甘い花の香りが脱衣場に広がる。


(これ、郁人さんからもらった香水と同じ花の香りなんだよね…)


郁人からもらった香水。
それはとてもいい香りで…。本当は毎日のように使いたいのだが、学校につけていくことは出来ない。

好きなひとにもらった物をいつでも身に付けておきたい、そう思うが、こればかりは校則を破ってまでつけるわけにはいかず。

それでも、いつでもこの香りに包まれていたい…と思っていた。

そして友人と入った店で偶然おなじ花の香りがするトリートメントを見つけ、買ってきたのだ。
本当はシャンプーも合わせて買おうとしたが、人気の香りらしく、トリートメントが残り一本だった。

しのは胸いっぱいに息を吸い込むと、隠しきれずにふふっと笑う。

本人からもらった訳でもないのに、貰ったものと同じ香りを感じるだけで幸せになれる。
しのは自分の素直な感情であるのに不思議さも感じた。

髪も乾き、自室に戻ろうと廊下へ出る。

少し冷えた空気が火照った体に気持ちがよかった。
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