*物語*

□優しさ
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夕食も終わり、お京さんと太一さんとと片付けをしていると、

リーンリーン

と、電話から音がする。
うちの電話はおじいちゃんの好みでダイヤル式の電話だ。
今は一人に一台携帯電話があるので、携帯電話を持たないおじいちゃんが入院中の今、この電話が鳴るのは珍しいことだ。


「誰かしら?」



片付けの手を止めてお京さんが、廊下に出ていく。
電話は廊下にある。
昔のうちは電話が部屋の外にあるみたいで、
この家も古いから、電話の定位置は廊下だ。



「なんで固定電話って部屋の中にないんだろうね?」


うちの実家も古いから、電話は廊下にあったよ…といって懐かしそうに太一さんが笑う。
この笑顔をこうして隣でずっと見ていたいなぁなんて思っていると。



「太一ちゃん!!太一ちゃん!!」



お京さんの声に居間に居る皆と、私たちの間に緊迫した空気が流れる。
太一さんはお京さんの声から何か感じたみたいで、洗い物の手を止めて走っていく。

ただならぬ雰囲気に私も廊下に顔を出すと、お京さんと太一さんが電話の前で話をしている。電話はまだ通じているようで、少し話をするとお京さんが受話器を太一さんに渡した。

(あんまりいい電話じゃないみたいだけど、太一さんになのかな…)

そばに居るお京さんの表情も悲しそうで…。普通じゃないみたいだけど。


何とも言えない不安が広がって、心臓がドキドキ脈打つ。
太一さんは、電話の相手にお辞儀をしてから電話を切る。


居間に戻った太一さんはとても悲しい顔をしていて、何だか声をかけられない。


「何があったのですか?」


郁人さんが口を開いた。
「何か」ではなく「何が」と尋ねる郁人さん。こう聞かれては誤魔化せない。No.2として組員のことを知っておかなければならない立場から、言葉をよく選んで使うところが郁人さんらしい。


「太一ちゃんが親しくしていただいてるおばあさんが亡くなられたみたいなの…」


太一さんもとても悲しい表情で答える。



「商店街からは少し離れてるんですが、小さなおせんべい屋をしていらっしゃって。時々お茶をごちそうになったりしていたのですが、昨日朝方急に倒れられてそのまま…」
「太一ちゃんが親しくしてるのを娘さんもご存じでわざわざ知らせて下さったの。…太一ちゃん、おばあさまに挨拶してこなくちゃね。喪服用意するから、お通夜にいかなくちゃ…」

お京さんが居間を出ていく。


「郁人さん…出かけてきます」
「気をつけていくのですよ」


結局声をかけられないまま、太一さんは出かけていった。
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