*物語*

□可愛い君
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夕方、大家族の胃袋を養っている綾部家の台所。男所帯な綾部家の夕飯の支度は、毎日どこかの食堂のような光景になる。

大皿に盛られた唐揚げ、サラダ、卵焼き。小鉢にならんだおひたし、煮物。

どれもお京が手際よく作っていく。

「しのちゃん、ちょっと味見してくれる」

おろし大根をおろすしのにお京が声をかける。

「あ、はい。ちょっと待って下さい」

小さくなった大根をすりながらしのが答える。
卵焼きの食べ方もそれぞれで、醤油、マヨネーズ、ケチャップ、おろし大根…と好みがある。
おろし大根で食べるのが好きなのは太一。

「もう、しのちゃんったら。太一ちゃんが好きだもんね〜、おろし大根。愛情いっぱいね!」
「えっ!?いや、別にそんな…」
「んも〜!照れなくてもいいわよぅ。しのちゃん可愛いんだから…」

赤くなるしのに、お京はさらに続ける。

「しのちゃんは太一ちゃんのどこがすきなの?」

お京特製のドレッシングを味見しているしのが思わずむせる。

「コホっコホっ…もぅ、お京さんからかわないでくださいっ」
「あらあら、はい、お水。からかってなんてないのよ。ガールズトークよガールズトーク♪」
「…ガールズって…。恥ずかしいですよぅ…」
「それとも私じゃガールズトークにならないのかしら…」
「いやっそんなことないです…けど…」
「じゃあ、いいじゃないの〜。太一ちゃんの場合、優しいのはわかってるから、優しいっていうの以外でね」

会話の主導権はお京のものになる。

「優しい以外で…。ん〜」

どこが好きか。たくさんある気がするが、いざ言葉にするとなると難しい。
しのが考えこんでいると、居間から大きな声が聞こえてくる。

「お京〜!腹が減ったぁ〜!」
「はぁい!!も〜!大我ちゃんったら!しのちゃんまた今度ね!」

大皿を抱えてお京がバタバタと居間へ消える。

(どうして答えられなかったんだろう…、太一さんのこと大好きなのに)

すぐに答えがでなかったことにショックを受けるしの。
夕飯の時間も考え込んでなかなか箸が進まない。

その様子を太一が心配そうに見ているのにも気がつかなかった。
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