02/20の日記

16:41
あくまでもフィクション2
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 子供は夫によく似た女の子だった。


 産休が明ける前に両親に預けて仕事に復帰した。


 残業も出張も独身時代と変わらず、それより積極的にこなした。

 「子供を見てくれる人がいるから出来るのよ」

 給湯室で陰口を叩かれているのはよく知っている。

 利用出来るものを利用して合理的にやっているだけだ。

 悔しければやればいい。
 
 海外を相手に仕事をする会社だが、勤めている女性は
「男に守られる」ことを夢見ている。

 気がつくと総合職にいた先輩は一人も残っていなかった。
 同期の一般職も皆、結婚、出産を機に退職していた。

 「咲子みたいにバリバリやる自信がないから」
 

 その頃、咲子は夫以外の男性と恋に落ちた。
 同じ会社の一年後輩。
 鼻につくぐらい仕事が出来る美しい男だった。


 議論をしたり、愛し合ったり、あれほど好きになった男はいなかった。

 「でも咲子は家に帰るんだよな」

 別れ際、彼はいつもそう呟く。
 その淋しげな顔が好きだった。

 逢瀬を重ねても自分は独りだと、転勤を機に彼は去って行った。

 辛かった。心の一部がもぎ取られたように。

 しかしもぎ取られたのは一部だった。
 仕事は残った。

 仕事は裏切らない。

 仕事を精力的にこなすと色んな付加がある。
 
 色んな土地や国を旅した。

 家も手に入れた。

 仕事に力を入れていると不思議なことに誰かしらが好意を寄せてくる。

 あの美しい男には及ばないが、仕事への活力には充分だ。

 彼らは2〜3年するとやはり転勤してしまうので後腐れもない。

 「咲子の話を訊いていると男の浮気のシステムがよくわかるわ」
 学生時代の友人が苦笑するほど咲子の人生は充実していた。

 家族で出かけると一人娘より咲子の方が華やかに目立つ。

 友人はそれも苦笑する。
 「娘と夫にかしずかれて幸せだね」

 それは自分が誰よりも努力し頑張ったからだ。

 何度も疲れて会社を辞めたいと思ったが、会社以外の誰がお金と充実を与えてくれるのか。

 退職した先輩や同期のように安い給料でパート仕事なんて考えられない。

 最近では男友達か仕事を続けている独身の友人としか話が合わない。

 このまま自分は変わらないと思う。
 
 自分は変わらないつもりが変わりつつあったのだが。


 …続きます

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