* hatsukoi *
□風邪引き幼なじみ
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通い慣れた部屋のドアを軽くノックし、声をかけてみる。
「吉野、大丈夫か?プリント届けに来た」
「・・・・・・」
返事はない。千秋の母の話では起きているはずだが、また眠ってしまったのだろうか。
「・・・入るぞ」
ガチャリ、とドアノブを回した。
「・・・・・・。」
やはり千秋は寝ていた。
・・・山積みの漫画に囲まれている状態で。
汚い。とりあえず汚い。
風邪の治りかけのときは、意外と暇なものだ。きっと千秋はここぞとばかりに読んでいたのだろう。
「(元あった場所にくらい返せよ…)」
羽鳥は近くにあった漫画から片付ける。
当の本人は、熱で少し苦しそうだが、それなりには気持ちよさそうに、涎を垂らしながら眠っていた。
「(・・・ムカつく。)」
普段はポーカーフェイスで通しているが、こればかりは表情が崩れてしまう。多分、このときの羽鳥の顔は・・・思い切り歪んだ口元をしていたに違いない。
「…ん…うぅ……」
少しだけ聞こえた千秋の声。
自分がバサバサやっていたから起こしたか?と顔をのぞき込んでみたが、千秋の瞳は少し開いたあと、再び閉じ、眠りについていった。
心なしか、さっきよりも顔が赤く、苦しそうに見える。
「(熱、上がってるんじゃないのか…?)」
大人しく寝ておけばいいものの・・・とも思うが、全て後の祭りである。心配なもんは心配だ。
前に使った風邪薬の残りは、どこにしまってあるのだろうか。
人様のお家だが、風邪薬と体温計の場所くらいは知っている。幼なじみの特権でもある。
取りに行こうと立ち上がると、急に何かに制服の裾を引っ張られた。
不思議に思い振り向くと、千秋の手が羽鳥のシャツをしっかりと掴んでいる。
それはまるで『行くな』とでも行っているように思えた。