* hatsukoi *
□LOVE me!
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「じゃ、その方向で進めていけ」
今日はいつものカフェで、千秋と新連載の打ち合わせ。
俺は今回の話もかなり面白いと思うのだが、当の本人は「えーこれでホントに大丈夫?」みたいな、不安そうな顔をしている。
千秋の担当になってしばらく経つが、最近やっとこういうときの対処法を見つけた。
…きちんと俺の意見と感想を伝えてやること。
「お前が不安がってると原稿に影響が出るぞ。…俺は今回の話、かなり好きだがな」
「……………!」
机に突っ伏していた千秋は、急に瞳を輝かせながら顔を上げた。
「ありがと、トリ!俺がんばる!!」
「あぁ、頑張れ」
……頑張れ、千秋。
俺は柳瀬のように作画には携わることができないけど、励ますくらいならしてやれるから。
「ありがとうございましたー」
2人分のコーヒーの代金を払って、カフェを出る。
千秋は職業柄、滅多に外に出ないので、こうして2人で並んで街を歩くのは久々だ。
時刻は午後5時。
今の季節は日が沈むのが早いから薄暗い。
井戸端会議中の主婦達、疲れた表現のサラリーマン。
竹刀を背負って帰宅する中学生に、寄り道をする高校生と…街を行き交う人々は様々で、見ていて少し面白い。
皆、それぞれ何かに一生懸命なんだろうな。
「……でさぁ、この間のテスト、今日返却されたじゃん。……どーだった?」
「うっわ、今それ聞くか!?この俺の顔色を見て分からんのか!」
すれ違った2人の男子高生の、そんな会話が耳に届く。
「お、おぉ……どんまい…」
「あ゛ー、いーよなお前は俺と違って頭良くてさぁー!!」
「あほ、俺だって努力してん、だよッ!」
「いだっ!」
成績優秀らしい背の高い方が、ぶーぶー言ってる背の低い方の額に強烈そうなデコピンを喰らわせた。
千秋もそのやり取りに気が付いたようで、くるりと後ろを振り向いて、何かを懐かしむような目を向けていた。
「……俺らもさ、あんな頃があったんだよなぁ…」
「そうだな」
「あーっ、若いっていいなー!」
…何年寄りじみたこと言ってんだ。三十路手前には見えない顔してるくせに。
そういえば昔、よく千秋のテスト勉強見てやってた。
中2のときのアレは酷かったな。……いろんな意味で。